第4章 危機 -   中津道夫(6)

文字数 543文字

             中津道夫(6)


 すると話の途中で、中津は何度も武井を止めた。

 止めては聞き返し、唸り声を上げては続きを話せと言う。

 恐らくは......どこの誰が耳にしたとしても、

 にわかに信じがたい内容には違いない。

「ヘリの爆発にグレネードランチャーですか……まあ、今日のところはそうい
 うことにしておきましょう。お聞きした話すべて、裏を取らせていただいて
 から、またお話を伺いに参ります……しかしまあ、お宅に現れる幽霊とやら
 は、ご自身でなんとかなさるしかないでしょうなあ……」

 そう言ってゆっくりと立ち上がった中津は、
 
 東京を離れる場合は必ず連絡するようにと、
 
 いくぶん薄汚れた名刺を1枚だけポケットから取り出し、
 
 無造作に武井へと差し出した。

 そして社長室を出て行きかけて、呆然と見送っていた武井へ向き直り、

「しかしあれですな、ここまで大きい会社になれば、社長さんが知らない社員
 なんてたくさんいるんでしょうね……しかし、彼女の方は違うでしょう。飯
 田良子は間違いなく、知っていたはずですから……」

 ――社長さん、あなたのことをね……。
 
 まさにそう告げる目を、

 中津は最後に武井へと向けた。
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