第3章 恐怖 -    飯倉薫(4) 

文字数 403文字

                 飯倉薫(4)



 今まさに彼女も、武井と同じ先を見つめていた。

 建物2階中央に広がるベランダで、数人の男と対峙していた一人の男、

 それが彼女の父親だったに違いない。

 薫の2度目の叫びの後すぐ、父親であろう男の姿は、

 ふっと消え去るように見えなくなった。

「逃げるんだ! 」

 武井は薫の手を握ってそう叫び、屋敷と反対方向へ走り出そうとする。

 しかし、身体を引きずられながらも、薫はその顔をベランダに向け続け、

 どうにも走ろうとはしてくれない。

 彼女の父親が今どうあろうと、武井にはもうどうしようもなかった。

 それどころか、まさに己への危険をひしひしと感じるのだ。

 少なくとも3人はいた男たちの姿が、ベランダから忽然と消え失せている。

 真っ先にヘリを爆破したやつらが、

 武井たちをそのままにしておくとは到底思えなかった。
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