第2章 罠 - 侵入者(4)

文字数 734文字

         侵入者(4)

 優子は気味の悪さを充分に感じながら、

 再びセキュリティシステムを作動させる。

 そしてリビングのソファに座り、腿の上にその封筒を置いた。

 宛名もなく、もちろん差出人の名前だって書かれていない。

 裏側を見ると、封筒の下の方に赤黒いインクで、

 ご丁寧に小さなドクロマークが印字されている。

 それが何かの冗談であったとしても、

 到底趣味のいいものには思えなかった。

 さてどうすべきか……? 

 武井の帰りを待つべきだろうか? 

 そう思いながら置き時計に目をやると、まだまだ帰宅時間には程遠い。

 それどころか、帰ってこないことだって充分考えられるのだ。

 優子は意を決し、手にした封筒にハサミを入れた。

 するとその中には、

 ファイルのようなものがぎゅうぎゅうに押し込まれていて、

 彼女はそれを取り出そうと封筒を逆さまにしながら立ち上がる。

 その途端、ファイルが抜け落ち、

 中にあったものが辺り一面散らばり落ちた。

 ――何よこれっ!?

 膝が震え、心臓の鼓動が高鳴った。

 優子は空となった封筒を手にしたまま、

 いつしか涙が溢れ出て止まらなくなる。

 しかしそれを拭おうともせずに、封筒をソファの上に力なく放ると、

 ゆっくりキッチンの方へと歩いていった。

 彼女は食器棚中央の引き出しを開けて、

 奥から旧式の携帯電話を取り出すと、大きな溜め息を一回だけ吐いた。

 それから唯一着信のあった番号を呼び出し、

 発信ボタンをゆっくりと押していく。

 そして、彼女が携帯を耳に当てた途端、相手からの声が唐突に響き渡った。

「さあ、ここからが本番よ! 」
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