第７章 はじまり － 別荘〜岡島の告白（３）
文字数 1,779文字
別荘〜岡島の告白（３）
「中村さんにはな、２人の娘さんがいて、優子さんはその娘さんらと、これま
でもずっと連絡を取り合っていたんだ。中村さんが亡くなった時、まだ２人
は小さくてな、妹さんの方なんて、オムツも取れちゃいなかった。だから優
子さんはお姉さんみたいな存在として、ずっと２人のことを見守ってきたの
さ。ほら、スナックのママって言えば分かるだろ？ あれが、妹の方の麻衣
さんだ……」
そこで初めて、岡島を睨み続けていた武井がゆっくりとした反応を見せる。
彼が岡島の指し示す方へ顔を向けると、中村麻衣がにこっと笑って、
武井へとぎこちなく手を振って見せた。
「で、お姉さんは愛さんと言って、武井、おまえが殺したと思っていた飯田良
子、まあ飯倉薫でもどっちでもいいんだが……彼女が、その愛さんなんだ
よ……」
そこで岡島が一息つき、即座に武井が何事かを言い掛けるが、
岡島がそれを制して慌てるように言葉を継いだ。
「あ、そうそう、大事な人がもう１人、おまえの通っているジムに現れたおば
あさんな、あれが亡くなった中村さんの奥さん、久代さんだ」
――ジムに現れたばあさん……？
武井の脳裏に、あの森での出来事が走馬灯のように蘇る。
――あの爆発も何もかも、全部作り事だってか？
――それじゃあ……まるで茶番じゃないか。
武井の心に再び、ジリジリと焼き付けるような怒りが涌き上がった。
「それで、みんな揃って復讐ごっこってわけか？ 冗談じゃない！ おふざけ
もいい加減にしろ！」
武井は今一度岡島を睨み付け、
下ろしていた鉄串を彼のあご寸前にまで突き付ける。
しかしそれでも、岡島は一向に恐れる素振りを見せずに、
少しだけ興奮した声で続けるのだった。
「武井、おまえ優子さんに黙って、結婚前に避妊手術を受けてたんだってな。
どうしてなんだ？ それを知った時の彼女の悲しみを、おまえはまるで考え
なかったのか？ 子供がいらないならいらないで、そんなことは結婚前に、
２人で話し合って決めるべきことじゃないのか？ 」
７年ほど前、どうしても子供が欲しかった優子が、
一緒に病院に行って欲しいと武井に頼んだことがあった。
ところが彼は同意するどころか、
そこで初めて手術のことを打ち明けたのだ。
「……優子さんから聞いたよ。おまえ小さい頃、母親にとことん嫌われていた
んだって？ だからっておまえ……まさか優子さんが、おまえのお袋さんの
ようになるとでも思ったのか？ だから子供なんか要らないって、おまえは
思ったとでも言うつもりなのか？ 」
「うるさい！！ 黙れ！ 黙れ！ 黙れ！ 」
いきなり叫んだ武井の腕が、声に合わせて左右に揺れた。
それによって、岡島の顎に鉄串の先が微かに触れる。
慌てて顔を引くが、そこそこの痛みが岡島の顎から脳天へと走った。
「待て！ 本当に復讐なんてのじゃないんだ。中村さんの奥さんも、娘さん達
だって今はもう、あれは事故だったって思ってくれている。そりゃあ昔は違
っただろう。でもな、優子さんがそのわだかまりを取り去ってくれたんだ。
長い時間を掛けて、おまえの代わりに償いをしてくれてな」
顎に手を当てながら、岡島が必死な形相を見せながら訴える。
優子は武井の事業が軌道に乗り始めた頃から、
中村家への援助を続けていたのだった。
久代が開いた小さな小料理屋の開業資金も、
その大半を武井に内緒で優子が都合を付けていた。
「だから……とにかく、ただ気付いて欲しかったんだ。優子さんの気持ちや、
人間らしい心を、おまえに取り戻して欲しかっただけなんだよ」
――人間らしい心？ それを俺が、いつ失ったって？
「優子の気持ち？ それはどんな気持ちだ？ 」
「だからそれは、優子さんだって辛かったってことだよ」
――辛い？ 何が辛い？
「だからその辛いってのは、いったいどんな気持ちかって聞いてるん
だ！！ 」
武井の怒声に、岡島がビクッと身体を揺らした。
――そんなこたあ、もうどうでもいいんだ！
「何がどうあろうと、どんな理由があったとしてもだ！ こんなことしていい
のか？ なあ、冗談じゃないぞ！？ おまえらいったい何様のつもり
だ！？ 」
武井がそう叫び、
突然、手にあった鉄串を天高く振り上げた。
「中村さんにはな、２人の娘さんがいて、優子さんはその娘さんらと、これま
でもずっと連絡を取り合っていたんだ。中村さんが亡くなった時、まだ２人
は小さくてな、妹さんの方なんて、オムツも取れちゃいなかった。だから優
子さんはお姉さんみたいな存在として、ずっと２人のことを見守ってきたの
さ。ほら、スナックのママって言えば分かるだろ？ あれが、妹の方の麻衣
さんだ……」
そこで初めて、岡島を睨み続けていた武井がゆっくりとした反応を見せる。
彼が岡島の指し示す方へ顔を向けると、中村麻衣がにこっと笑って、
武井へとぎこちなく手を振って見せた。
「で、お姉さんは愛さんと言って、武井、おまえが殺したと思っていた飯田良
子、まあ飯倉薫でもどっちでもいいんだが……彼女が、その愛さんなんだ
よ……」
そこで岡島が一息つき、即座に武井が何事かを言い掛けるが、
岡島がそれを制して慌てるように言葉を継いだ。
「あ、そうそう、大事な人がもう１人、おまえの通っているジムに現れたおば
あさんな、あれが亡くなった中村さんの奥さん、久代さんだ」
――ジムに現れたばあさん……？
武井の脳裏に、あの森での出来事が走馬灯のように蘇る。
――あの爆発も何もかも、全部作り事だってか？
――それじゃあ……まるで茶番じゃないか。
武井の心に再び、ジリジリと焼き付けるような怒りが涌き上がった。
「それで、みんな揃って復讐ごっこってわけか？ 冗談じゃない！ おふざけ
もいい加減にしろ！」
武井は今一度岡島を睨み付け、
下ろしていた鉄串を彼のあご寸前にまで突き付ける。
しかしそれでも、岡島は一向に恐れる素振りを見せずに、
少しだけ興奮した声で続けるのだった。
「武井、おまえ優子さんに黙って、結婚前に避妊手術を受けてたんだってな。
どうしてなんだ？ それを知った時の彼女の悲しみを、おまえはまるで考え
なかったのか？ 子供がいらないならいらないで、そんなことは結婚前に、
２人で話し合って決めるべきことじゃないのか？ 」
７年ほど前、どうしても子供が欲しかった優子が、
一緒に病院に行って欲しいと武井に頼んだことがあった。
ところが彼は同意するどころか、
そこで初めて手術のことを打ち明けたのだ。
「……優子さんから聞いたよ。おまえ小さい頃、母親にとことん嫌われていた
んだって？ だからっておまえ……まさか優子さんが、おまえのお袋さんの
ようになるとでも思ったのか？ だから子供なんか要らないって、おまえは
思ったとでも言うつもりなのか？ 」
「うるさい！！ 黙れ！ 黙れ！ 黙れ！ 」
いきなり叫んだ武井の腕が、声に合わせて左右に揺れた。
それによって、岡島の顎に鉄串の先が微かに触れる。
慌てて顔を引くが、そこそこの痛みが岡島の顎から脳天へと走った。
「待て！ 本当に復讐なんてのじゃないんだ。中村さんの奥さんも、娘さん達
だって今はもう、あれは事故だったって思ってくれている。そりゃあ昔は違
っただろう。でもな、優子さんがそのわだかまりを取り去ってくれたんだ。
長い時間を掛けて、おまえの代わりに償いをしてくれてな」
顎に手を当てながら、岡島が必死な形相を見せながら訴える。
優子は武井の事業が軌道に乗り始めた頃から、
中村家への援助を続けていたのだった。
久代が開いた小さな小料理屋の開業資金も、
その大半を武井に内緒で優子が都合を付けていた。
「だから……とにかく、ただ気付いて欲しかったんだ。優子さんの気持ちや、
人間らしい心を、おまえに取り戻して欲しかっただけなんだよ」
――人間らしい心？ それを俺が、いつ失ったって？
「優子の気持ち？ それはどんな気持ちだ？ 」
「だからそれは、優子さんだって辛かったってことだよ」
――辛い？ 何が辛い？
「だからその辛いってのは、いったいどんな気持ちかって聞いてるん
だ！！ 」
武井の怒声に、岡島がビクッと身体を揺らした。
――そんなこたあ、もうどうでもいいんだ！
「何がどうあろうと、どんな理由があったとしてもだ！ こんなことしていい
のか？ なあ、冗談じゃないぞ！？ おまえらいったい何様のつもり
だ！？ 」
武井がそう叫び、
突然、手にあった鉄串を天高く振り上げた。
