最終章 回帰 - 謝罪(4)

文字数 977文字

                謝罪(4)


「今、向かっているパーティ会場にいるのはね、ほとんどが劇団関係者なの。
 でもホント、今回は多いわあ……スタッフがいつもの倍以上だもの……あ、
 ちゃんとね、無理言ってご出演いただいた会社関係の方々には、全員お越し
 いただいてますから、ご対面楽しみにしていてくださいね! 」
 
 そんなことを中津から言われて、武井はふと、

 矢島や柴多のことを思い出した。
 
 長きにわたる恩義を忘れ去り、恩を仇で返してしまった自分は、

 2人へどんな顔を向ければいいのか? 

 そんなことを思い、あらぬ方を睨み付ける武井へ……、

「大丈夫……今のあなたなら、きっとみんな、許してくれるわよ。それに結構
 な出演料をね、武井さんからのお詫びとして、皆さんにちゃんとお支払いさ
 せていただいたし! まあ後はパーティー会場で、心から謝れば大丈
 夫……」
 
 そう言ってから、中津はさらに顔を近付け、

「だけどね……さっきみたいに、泣いちゃうなんてのだけは、もう勘弁してく
 ださいませね」
 
 冗談とも本気ともつかない口ぶりで、

 されど真顔を見せてそんなことを言ってくる。

 それを聞いて武井は、ふと、何か探すように車内全体を見回した。

 すると中村愛がすかさず、

「あ、お母様でしょ? 車椅子なんで、後ろを走ってるワゴン車に乗ってます
 よ。それに、うちのお母さんも一緒だから、安心してください」
 
 と、機転を利かせて言ってくる。

「ご存知ですよね、うちのお母さん……霊能力者って役だったんですけど、た
 った一日の出番だったでしょ、それで、出番以外は、結構あの別荘でお世話
 になってたんです。母はここ10年とちょっと、小料理屋をやってまして、
 これまでのお礼も兼ねて、料理担当って感じでね。だから今ではもう、武井
 さんのお母様と大の仲良しなんですよ。もし良かったら、これをご縁に母の
 店を覗いてやってください。しばらく休んでましたけど、武井さんのお住ま
 いと同じ小田急線沿線にある、〝おぢや〟って店なんです……」
 
 愛はそう言って、中津の隣で満面の笑みを見せていた。

 そんな愛の言葉を受けてか、優子がまさにポツンと、

 武井に向けて独り言のように呟いた。

「お義母さん、今はもうずいぶん、良くなったわ……」

 そう声にしてから、少しだけ躊躇いがちに、武井の方に顔を向ける。
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