第4章 危機 - 臭気(3)
文字数 1,147文字
臭気(3)
――なんでだ! どうしてこんなものが車の下に?
腐った魚やネズミとかの死骸だろうか......
とにかくそれは、ドロドロと溶け出した血肉に違いなかった。
大きく息を吸い込もうものなら、途端に吐いてしまいそうになる。
そんな臭気を少しでも遠ざけようと、
彼は懸命に腕を伸ばし顔を背けながら、
ゆっくりと立ち上がろうとするのだった。
しかし膝が地面から微かに浮き上がった途端、
いきなり何かが頭の上へと落ちてくる。
ビシャッという音と共に、なんの前触れもなくドロドロした液体が、
頭上から身体全体に降り注がれた。
武井は驚いて声を上げ、思わず息を吸い込んでしまう。
その途端、新たな臭気に驚愕し、
吸い込んだ息を吐き出すこともできなかった。
しかしそんなお陰で、彼はその臭気の元がなんであるかを悟るのだ。
結構な期間密閉され、放り置かれていたのだろう。
充分に腐って液状化した汚物が、
苦しいとまで感じさせる臭気を放っている。
どうしてこんなものが落ちてきたのか?
武井は首から下を動かさぬまま、
その顔だけをゆっくり後ろに向けていった。
するとすぐ、まさに抜き足差し足といった男の背中が目に入った。
「貴様! どこのどいつだ!! 」
思わず叫んだ武井の声に、男は音を響かせ立ち止まる。
そしてほんの一瞬だったが、
その顔を武井の方へと向けたのだった。
――あいつ……。
その瞬間、脳裏に男の記憶が浮かび上がる。
武井はその男を知っていた。
そうしてようやく、今起きていることの意味を少しだけ理解して、
武井は全力疾走で走り去ろうとする背中をただ呆然と見送っていた。
そして今、男の走り去る靴音はとっくに消え去り、
辺りはすっかり音のない世界となっている。
そんな中、高級スーツは糞尿にまみれ、
腐敗し切った異物を手にしたまま……武井はふと我に返り、
「なんだってんだ! これは!! 」
そう叫んで力任せに、
手にしていたビニール袋を地面に向かって叩き付けた。
すると、ブニャ! という音がして、袋が勢いよく破裂する。
きっとガスでも溜まっていたのだろう。
破裂音と共に砕け散ったいくつもの異物が、
勢い良く彼の全身に飛び散り降り掛かった。
「なんなんだ! まったく! 」
向ける先のない怒りを声にする武井は、
すぐにこうなった理由の一端を思い出し、
「自業自得じゃないか! 逆恨みもいいとこだ! 」
誰もいない駐車場で、
さらに大声でそんなことを叫ぶのだった。
――なんでだ! どうしてこんなものが車の下に?
腐った魚やネズミとかの死骸だろうか......
とにかくそれは、ドロドロと溶け出した血肉に違いなかった。
大きく息を吸い込もうものなら、途端に吐いてしまいそうになる。
そんな臭気を少しでも遠ざけようと、
彼は懸命に腕を伸ばし顔を背けながら、
ゆっくりと立ち上がろうとするのだった。
しかし膝が地面から微かに浮き上がった途端、
いきなり何かが頭の上へと落ちてくる。
ビシャッという音と共に、なんの前触れもなくドロドロした液体が、
頭上から身体全体に降り注がれた。
武井は驚いて声を上げ、思わず息を吸い込んでしまう。
その途端、新たな臭気に驚愕し、
吸い込んだ息を吐き出すこともできなかった。
しかしそんなお陰で、彼はその臭気の元がなんであるかを悟るのだ。
結構な期間密閉され、放り置かれていたのだろう。
充分に腐って液状化した汚物が、
苦しいとまで感じさせる臭気を放っている。
どうしてこんなものが落ちてきたのか?
武井は首から下を動かさぬまま、
その顔だけをゆっくり後ろに向けていった。
するとすぐ、まさに抜き足差し足といった男の背中が目に入った。
「貴様! どこのどいつだ!! 」
思わず叫んだ武井の声に、男は音を響かせ立ち止まる。
そしてほんの一瞬だったが、
その顔を武井の方へと向けたのだった。
――あいつ……。
その瞬間、脳裏に男の記憶が浮かび上がる。
武井はその男を知っていた。
そうしてようやく、今起きていることの意味を少しだけ理解して、
武井は全力疾走で走り去ろうとする背中をただ呆然と見送っていた。
そして今、男の走り去る靴音はとっくに消え去り、
辺りはすっかり音のない世界となっている。
そんな中、高級スーツは糞尿にまみれ、
腐敗し切った異物を手にしたまま……武井はふと我に返り、
「なんだってんだ! これは!! 」
そう叫んで力任せに、
手にしていたビニール袋を地面に向かって叩き付けた。
すると、ブニャ! という音がして、袋が勢いよく破裂する。
きっとガスでも溜まっていたのだろう。
破裂音と共に砕け散ったいくつもの異物が、
勢い良く彼の全身に飛び散り降り掛かった。
「なんなんだ! まったく! 」
向ける先のない怒りを声にする武井は、
すぐにこうなった理由の一端を思い出し、
「自業自得じゃないか! 逆恨みもいいとこだ! 」
誰もいない駐車場で、
さらに大声でそんなことを叫ぶのだった。