第3章 恐怖 -    飯倉薫(2) 

文字数 1,037文字

                飯倉薫(2)


「もしよろしかったら、さっきお話しした珍しいワイン、これから、うちに飲
 みにいらっしゃいません?」

 オーストラリアのメーカーが発売した、

 世界で12本だけというビンテージワイン。
 
 販売価格は優に一千万円を越え、なんならそれを、

 武井へ2、3本プレゼントするとまで彼女は言った。

 そんな誘いに驚いていると、

 辺り一面もの凄い爆音が轟き始めるのだった。
 
 さっきエレベーターから降り立つと、

 そこからさらに上っていく短い階段があった。

 その先には、想像を遥かに凌ぐ広々とした屋上が広がっていて、

 なんとそのど真ん中に、かなり大型のヘリコプターが鎮座していたのだ。

 たとえ小型機であっても、新品であれば多くは億を超えるだろう。

 ところが今武井の乗っているのは、

 その大きさ装備からいって、とてもその程度で買える代物とは思えない。

 旅客輸送用としても活躍できそうな広さを持ち、

 通常の客席を並べても、20人くらいなら一気に運べそうな感じだった。

 そんな広々とした空間の中、

 向かい合わせのソファーに薫が悠然と腰を下ろす。

 そして自分の隣に座れと指差し、

「あっという間ですから……」

 浮き上がったと思った途端、彼女はそう言って武井の方に身を寄せた。

 その瞬間、ふっと意識が飛んだような気がして、彼は2、3度頭を振る。

 そして再び、外の景色に焦点が合った時には、

 ヘリはずいぶん高度を上げているのだった。

 それから10分程度揺られた頃、機体が瞬く間に降下し始める。

 武井は眼下にある光景を目にして、

 ここって……まだ関東だよな? 

 などと思った。

 通常ヘリコプターの速度とは、

 出ても時速300キロくらいまでがせいぜいだ。

 だとすれば彼のいるところは、

 鎌倉や相模湖、あるいは熊谷辺りくらいか? 

 ところが眼下に見える風景は、

 とてもそんな近県のものとは思えなかった。
 
 どこまでも続く森林の中に、

 舗装された道路が1本まっすぐに延びている。 

 それに沿うように、1カ所だけ大きく土地が切り開かれているのだ。

 野球場3つは入りそうに思える広大な敷地の真ん中に、

 西洋であれば見掛けることもあるだろうお城のような建物が見え、

 ヘリがそこを目指すようにゆっくり高度を下げていく。
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