第7章 はじまり - 別荘〜岡島の告白

文字数 1,188文字

             別荘〜岡島の告白


 風のない、本当に良く晴れ渡った空の下、パチパチという大量の炭の音と、

 岡島の声だけが暫し響き聞こえていた。

「……高校の頃から知っているんだ。毎朝駅のホームで、ずっと彼女を見てき
 たんだからな……」
 
 そんな言葉から始まった岡島の告白は、

 まさしく武井にのみ向けられたものだった。

 高校三年生になったばかりの春、高校生一年生の優子をホームで見掛けて、

 岡島はその可憐さの虜になっていた。

 だからそれからというもの、彼は毎朝ホームに立って、

 彼女が現れるのを待つようになる。

 もちろん声を掛け、

 万が一にも付き合えるなんてことになれば、天にも上る最高の幸せだ。

 しかし間近に迫った受験のことを考え、

 彼は見ているだけの喜びの方を選択する。

 そして、後ひと月もすれば年が替わろうかという頃、

 いつもの時間、いつもの乗り換え口から、優子が足早に姿を見せた。

 だから彼は前日と同様、優子が乗込むのを見届けてすぐ、

 別の乗車口から同じ電車に乗り込もうとした。

 ところがその日、彼が隣の乗車口へ向かい掛けたその瞬間、

 1人の男性が車内から弾き出される。

 岡島のすぐ目の前で、

 ホームにその身体ごと放り出されてしまうのだった。

「おまえがやったんだよな。おまえが、その人のことを思いっきり押し出した
 んだ。俺は、はっきり見たんだよ。弾き出されたその人がいた場所に、武
 井、確かにおまえの顔があった。それだけじゃないぞ! 優子さんはな、お
 まえが腰と肘で突き飛ばしたって分かったんだそうだ。後から乗り込んで来
 てぎゅうぎゅう押されて、きっとムカついたんだろ? それとも単に憂さ晴
 らしだったのか? とにかく、その人はそれが原因で、ひと月も経たないう
 ちに亡くなってしまったんだ。どうせ、そんなことがあったなんて、まるで
 覚えていないんだろうけどな……」
 
 その時、呆然と見守る若々しい岡島の前で、

 高校生の優子が、男性の傍らで叫び声を上げた。

「救急車! 誰か救急車を呼んでください! 」

 そんな優子に岡島も真っ先に駆け寄っていて、

 2人はその男性と一緒に、救急車で病院まで付き添うことになっていた。

 男性は中村透と言い、朝通勤でこのホームに立つのは、

 彼にとって実に3ヶ月ぶりのことだった。

 やっと手にした就職先の初出勤日だというのに、

 どうにも朝から体調が悪い。

 息が白いほど冷え込んでいる中、妙に冷たい汗が出て止まらなかった。

 やっとホームまで来て、

 歩くのもしんどいという中村の様子に優子も気が付き、

 歩きながらチラチラとその目を向けていた。

 大丈夫かしら? 

 そう思いながらも、足を引きずるように前を歩く中村を追い越し、

 彼女はいつもと同じ場所に並ぶ。

 そして、到着した電車に乗り込んですぐに、

 続いて乗り込もうとする中村の姿に気が付いたのだ。
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