最終章 回帰 - 謝罪

文字数 710文字

                 謝罪


 4人でも、充分ゆったり並んで座れる本革シート。

 そして足元には、見事に真っ赤な絨毯が敷かれている。

 向かい合う座席の間には、

 左右にボトルケースやワインクーラーが設置されていて、

 高級感溢れる空間はまさに応接室のようだった。

 今、武井の屋敷から乗り込んだばかりの6人の男女が、

 そんな車内に乗り合わせていたのである。

「ごめんなさいねえ、でも、わたしが勝手にやったわけじゃないのよ……ちゃ
 んと依頼を受けて、のこと、なんですからね……」
 
 さっき車に乗り込もうとした時、

 中津が言い訳がましくそんなことを言っていた。

 中津に促され玄関を出ると、

 そこにはアメリカを代表する高級ブランドのリムジンが停まっていて、

 10メートル近いその全長を惜しげもなく晒していた。

 武井はどこに行くつもりなのか気にはなったが、

 それ以上に、楽しそうにはしゃぐ面々にも苛ついていた。

 全員が全員着飾っていて、

 まるでパーティーにでも向かうような出で立ちなのだ。

 そんな中、優子だけはその表情は硬く、

 それでも、時折見せる遠慮がちな笑顔に、彼はますます苛ついていった。

 車の中で説明する。

 間違いなく中津は、そう言って彼を車へと誘っていたのだ。

 それが乗り込んで10分以上が経とうというのに、

 その後の言葉がまるでなかった。

 武井はとうとう我慢できずに、

「教えてくれ……」

 下を向いたままそう呟くが、誰もその声に気が付かない。

「さっさと説明してくれないか!? 」

 再びの大声でやっと、車内の騒がしい声がピタッと止んだ。

 そして、武井の睨み付ける顔をマジマジと見つめて、

 中津が妙に明るい声で言って返した。
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