第3章 恐怖 – ワンピースの女(2) 

文字数 981文字

              ワンピースの女(2)


 昼間、あの老婆に言われたことで、

 いるはずのないものが見えた気になった。

 きっとそうに決まっていると、

 彼はその場でエンジンを切り、勢いよく車から降り立った。

 ところがその次の晩にも、女はやはり同じところに立っていた。

 武井はやはり無視することができずに、

 翌日の帰宅時、門からハイビームのまま進入したのだ。

 するとダイニングルームの中央に、疑いようもない女の姿が浮かび上がる。

 ――どうして……そこにいるんだ?

 さらに彼はその女の顔に、しっかりとした見覚えさえあった。

「飯倉……薫……あんた、なのか? 」

 彼はそう呟くや否や、車から飛び降り一目散に窓へと走って、

「そこで何をしている!? どうしてそんなところにいるんだ!! 」

 心のままを叫び続け、窓ガラスに握り拳を何度も何度も叩き付けた。

 彼の拳が当たる度、特注の窓が鈍い音を立てて揺れる。 

 しかし薫に見える何者かは一切反応を見せずに、

 じっと1点を見つめて窓の外へと目を向けている。

 描かれている絵画のように、まるで微動だにしないのだ。

 ――このやろう! どこのどいつだ! このやろう! 

 何があろうと捕まえてやると、武井は心でそう叫びながら玄関まで走り、

 靴を脱ぎ捨てるようにして屋敷の中に飛び込んだ。

 だだっ広いリビングを抜けて、

 あっという間にダイニングルームに到着すると、

 センサーが次々と武井を感知して室内が急に明るくなった。

 ところが昼間のように明るいダイニングルームに、

 外から見ていた女の姿がどこにもない。

 ――どこに行った!? 絶対どこかにいるはずだ! 

 ダイニングルームには、隠れる場所などありはしない。

 だからその先にあるキッチンへと走り、彼は辺りに一通り目をやった後、

 今度はキッチン内の扉という扉を開けていく。

 人間であれば到底入り込めないようなところへも、

 彼はいちいち扉を開けて覗き込んだ。

 ――こんなことが、あり得るはずがない……。

 だから絶対、どこかに隠れているに決まってる! 

 しかしどこをどうひっくり返しても、

 女の姿どころか......その痕跡さえ出てこなかった。
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