第9章 喪失 - 夢から覚めて(6)

文字数 507文字

               夢から覚めて(6)


「申し訳なかった……本当に俺は……何と言って、謝ったらいいのか……」

 そんな力ない声に、優子も大粒の涙を流し応え、

 車椅子の良子は、じっとその耳だけで感じていた。

 もし、許されるのであれば、

 もう少しこのままでの時をと、きっと誰もが思ったであろう。

 そうして当然、そこにいる誰もが、心からそう感じていたのだ。

 ところが残念ながら、そうにもいかない事情があった。

「申し訳ないけど、そろそろ時間なのよ! 感動的な場面なのにごめんなさ
 い! でももう、リミットギリギリ! だから急いでもう行かなくっち
 ゃ! 」
 
 思わず響いたその声に、

 泣き崩れていた武井も思わず驚き、慌てて顔を上げる。

 するとそこには、いくつもの知った顔があったのだ。

 別荘にも姿のあった何人かが突如現れ、

 ダイニング中央に立ち、武井の顔を見つめている。

 そんな中、ひとり1、2歩踏み出した辺りにいたのが中津道夫で、

 彼は唯一ニコニコと嬉しそうに、

「ごめんなさい、またみんなで忍び込んじゃったわ」

 そう言った後武井へ近付き、さらに声高に告げるのだった。

「詳しいことは車の中でね、さ、みんな急ぐわよ! 」
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