第7章 はじまり - 仕掛け

文字数 1,183文字

                 仕掛け


 優子が劇団の所有するビルを尋ねて、十数年ぶりに、
 
 若かりし頃のウエディングドレス姿を目にしてから数日後、

 岡島の事務所に劇団からの請求書が届いた。

 ドッキリ倶楽部への依頼は、特に契約書などは存在していない。

 不定期に届く請求書通りに入金すれば、

 次のシーンに進んでいくという仕組みになっていた。

 この1枚目の請求書は手付金という名目で、岡島が提示した額からすれば、

 ほんの雀の涙程度のものだった。

 しかしとにかく、岡島が1回目の振り込みを済ませた翌日から、

 24時間に亘る武井への行動調査が始まった。

 それからさらにひと月ほどで、

 山瀬美咲がクラブでホステスとして働き始める。

 最初、その目的を聞いた優子は、

「そんな……いくらなんでもそんなこと……」

 武井へと自ら近付き、単なる身体の関係以上の信頼を勝ち取る。

 そんな話しを聞いて、あまりの驚きに思わずそんな声を上げていた。

 ところが中津は、これまで以上のオネエ言葉で笑いながら返してくる。

「大丈夫よ、今回のギャラを伝えたら、人殺し以外なら何でもやるって、美咲
 ちゃん言っちゃってるもの。それにあの娘、いろいろ事情があってね、未だ
 に貧乏アパート住まいなの……だから今回、彼女本気で喜んじゃってるから
 全然平気! 」
 
 結果、武井は知り合ってふた月も経たぬうちに、

 美咲へそこそこのマンションを貸し与えた。

「ここから夏までは助走みたいなものなの。勝負は秋に入ってからになるわ。
 それまでは準備やら何やらでバタバタするけど、とにかくみんなで頑張って
 行きましょ! 」
 
 そう言って中津は、優子へも初めて軽いウインクをして見せた。

 さらに、彼はポケットから折り畳み式の携帯を取り出し、

「これに、わたしの携帯から着信を入れてあるのね。わたしとの連絡用として
 お渡ししとくから、何かあったら、これで着信の番号に電話を掛けてちょう
 だい」
 
 と言って、優子の前にそっと置いた。

 それからしばらくは、聞いていた通り優子の出番はまるでなかった。

 しかし武井への仕掛けの口火は、

 家を出て行くという優子によって切られることになるのだった。

「借りたり買ったり壊したり、まあいろんなところへの本格的な支払いは、だ
 いたい半年くらいしてからかしら? その頃から請求書が届くようになるの
 で、その都度入金......よろしくね」
 
 そう言って、再びウインクをして見せていた中津の思惑通りに、

 それからほぼ半年後、武井から優子の口座に大金が振り込まれ、

 武井の資産半分以上を優子は自由にできるようになった。

 その頃から武井は、次々と直面する不可思議な場面に、

 人生で最大の不安を抱えていたことだろう。

 そんな彼への仕掛けは皆、綿密な調査、分析を元に、

 とことんまで練り上げられたものなのであった。
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