第9章 喪失 - 別荘〜新たなる真実(2)

文字数 955文字

            別荘〜新たなる真実(2)


 そしておもむろに振り返り、

 武井は岡島に向かって弱々しい声で言うのである。

「嘘、なんだろ? おい、これもみんな、芝居、なんだろ? なあ、そうなん
 だよなあ? 実は全部フィクションで、ドッキリでしたって、落ちなんだ
 ろ……? 」
 
 なんとか、言ってくれよ――そんな最後の振り絞るような声に、

 岡島は歩き始めていた足をいったん止める。

 そして背中を向けたまま、首をゆっくり左右へ振った。

 そうして今度は俄然足早になってワゴン車へと近付き、

 彼はさっさと乗り込んでしまうのだった。

「おい、ちょっと待ってくれ! 頼むから、本当のことを教えてくれよ! 」

 さっきまでの勢いは完全に消え失せ、

 武井の声はまさに懇願そのものとなっている。

「嘘だ……嘘に決まってる……これはいったい……なんなんだ! 」

 岡島がワゴン車の中に消えた後、武井は再び焼け跡に目を向け、

 1人呟きながら、何度も何度もその首を振った。

 武井は岡島が伝えてきた過去の話を、

 どうあっても信じたくはなかったのだ。

 しかしそう思えば思うほど、

 そうであったのかも知れないという思いが涌き上がってくる。

 2度目の爆発の後、小さな別荘が一気に炎に包まれた頃、

 それはまさしくいきなりだった。

「もう……とても間に合わない……」

 震える声でそう呟いた後、岡島が唐突に語り出した話は、

 台本にどころか、

 中津からの新たな指示にもまったくないものだったのだ。

「おまえは何にも分かっちゃいない! おまえは……自分の母親でさえ、誤解
 しているんだぞ! 」
 
 そんな言葉から始まった岡島の話は、

 武井の母、良子が本来、墓場まで持っていくつもりのものでもあった。

「おまえ、親父さんのことが大好きだったんだよな……? だからお袋さん
 は……おまえのことを思って、ずっと隠し通して来たんだ! 」
 
 そこでやっと、背を向けていた武井の視線が岡島へと向けられる。

「おまえは、お袋さんがおまえを残して、どこかの男と心中しかけたって思っ
 ているんだろう? そいつってのは、祖父さんの財産を根こそぎ奪って、お
 まえの未来はそいつのお陰で、一度は完全に潰されかけたって信じてるんだ
 よなあ! でもなあ、それは違うぞ! まるで間違ってるんだ! 」
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