第9章 喪失 - 別荘〜新たなる真実

文字数 606文字

              別荘〜新たなる真実


 さっきまで燃え盛っていた炎が、今はもう、完全に消え失せていた。

 建材の特性であるのか、後半、炎は表へ煙をほとんど出さず、

 その分あっという間にすべてを包み込んだ。

 その火柱も低く、まるで家そのものが熱を放っているようでもあった。

 既に建物の姿は跡形もなく、

 強烈な焦げ臭さと薬品のような臭いが鼻を突いた。

 そして、今だに武井の立つ辺りにも、かなりの熱気が伝わりくるのだ。

 彼はさっきまで、燃え尽きていく建物を、

 気を失ったように呆然と眺めていた。

 まだワゴン車が1台残っていて、岡島が武井の背中を睨み付けていた頃、

 彼は頭の中で、岡島の言葉をただただ反芻していたのである。

 ――おまえを、助けたかったんだ、だから……。

 だから? 

 助けるってのは、いったい何からだ? 

 そのために、ここまでのことをしなければならなかったのか? 

 頭から離れないそんな彼の言葉に、武井の心に再び、

 どす黒いモヤのようなものが広がり始める。

 すると、そんな変化を悟ったからのように、

「もう行かないと、岡島さん、急いでくださいよ! 」

 谷川の声が小さく聞こえ、さらにワゴン車のエンジン音が響き渡った。

 いきなりの音に、武井はビクンと身体を震わせ、
 
 ――おい、これで本当に終わりか? 冗談だろ?

 本当に終わってしまうという驚きに、

 涌き上がっていた怒りが......一気に、消え去った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み