最終章 回帰 - 謝罪(3)

文字数 811文字

                 謝罪(3)


 当初の台本では、美咲と共に現れた武井が、

 別荘室内でくつろぐ岡島らを見つけ愕然とする。

 そこへ中津までが現れ、

 彼はさらに新たな真実を知らされるはずだった。

「その間に、室内にいる人たちはさっさと地下に隠れちゃう。でもまあ、爆発
 しちゃうってところは一緒なんだけどね、それでもいきなりの変更だったか
 ら、こっちも結構ドキドキだったのよ」
 
 中津と美咲が共謀し、別荘を爆破させ全員を殺してしまう。

 そしてまんまと2人は、大金を独り占めすることに成功するのだ。

 ところが、武井のあまりに早い出現で、

 急遽台本とは違う結末へ突き進むことになる。

「あなたがタクシーで追い掛けた谷川くんだけ、彼だけが何も知らなかったの
 よ。だって大慌てだったから連絡するの忘れちゃって、後からさんざん彼に
 怒られちゃったわよ。でもあれね、なぜなのかしら、全部知っているはずの
 岡島さん、あなた最後、涙まで見せて悔しがってたじゃない? 妙に感情入
 りまくりだったけど、あれって、いったい……どうしてだったの? 」
 
 中津はいったん言葉を止めて、武井を挟み、

 優子と反対側に座る岡島へと顔を向けた。

 しかし岡島はまるで反応せず、

 口を真一文字に閉じたまま、

 じっと前方の移りゆく景色を見つめている。

「とにかく、怪我の功名と言うか、結果オーライだわよね。ラストの大掛かり
 なセットも使わずに済んだし、そのおかげでこんな日を迎えられるんだか
 ら、ホントちょーラッキーだわ! 」
 
 台本上最後の最後まで突き進んだ場合のラストシーンは、

 今、リムジンの向かっている先、

 ホテルのパーティー会場になるはずだった。

 ところが今やその必要もなくなり、

 だからといって、当日キャンセルなどできようはずもない。
 
 さらに言うなら、リビングルームでの武井の行動次第では、

 最終幕がスタートしてしまう可能性だって、まだあったのだ。
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