第3章 恐怖 – 夢か幻(2) 

文字数 585文字

             夢か幻(2)


 あの夜、薫が忽然と消え去ってから、

 武井はどこまでも続く森を必死になって歩いた。
 
 そしてようやく現れ出たアスファルトの道を、
 
 さらに何時間も歩き続ける。 

 足の裏から膝までが死にそうに痛み、何度も立ち止まり膝を突いた。
 
 もう体力の限界だという時、運良く軽トラが通り掛かり、

 人生で初めてというくらいの懇願を見せて、

 彼はまんまと助手席へと乗り込むことに成功する。

 そして、彼が一言二言、礼らしき言葉を呟いた時には、

 既に意識はないも同じ……あっと言う間に深い眠りへと落ちていた。

 次に目を覚ますと、軽トラは農家の庭先に放り置かれ、

 既に太陽は天高く上り始めている。
 
 ――それから、俺はタクシーに乗った。

 やはりすぐに眠ってしまったが、
 
 確か支払いは……一万円以下だったはずだ……。

 そんなはっきりとした記憶からも、
 
 森がそれほど遠くであったはずがない。 

 なのに関東上空をいくら飛び続けても、
 
 それらしい場所は発見できなかった。

 さらに一週間もすると頭の傷も癒え、彼はあの日のことはすべて、

 幻であったかのように思い始めるのだった。

 ――どうだったんであろうと、
 
 ――今となっては、俺にはまるで関係のないことだ……。
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