第7章 はじまり - 劇団ときわ

文字数 519文字

               劇団ときわ



 すべての始まりは、1年以上前にまで遡る。

 ちらほら秋の気配が立ち始めた頃、岡島と優子が地図を片手に、

 かれこれ1時間近く歩き続けていたのだった。

「確かこの辺なんですけど、ちょっと待っててください。あそこにいる人に聞
 いてきますから」
 
 小さな雑居ビルの脇にある階段に座り、

 1人の男がパイプを美味そうに吹かしていた。

 岡島は小走りで男へと駆け寄り、すぐに笑顔を見せながら戻ってくる。
 
「やっぱりあのビルなんだそうです。ほら、あそこに小さな看板が出てました
 よ」
 
 岡島が指差す先に、

〝劇団ときわ〟、

 そう書かれている小さな看板が確かにあった。

 その日から、さらにひと月ほど前のこと、

「またの名を、〝ドッキリ倶楽部〟って言うんですよ、なんか、懐かしい響き
 でしょ? 」
 
 何の前触れもなく突然、岡島の事務所に現れ、

 武井と別れたいと言い出していた優子へ、

「別れる前に、一か八か賭けてみませんか? 財産なんて要らないっておっし
 ゃるなら、慰謝料をふんだくれるだけふんだくって、その金全部叩いてやっ
 てみましょうよ! 」
 
 ノートパソコンの画面を優子へと向けて、

 岡島はそう言ってさも嬉しそうに笑った。
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