第7章 はじまり - 別荘〜岡島の告白(2) 

文字数 916文字

              別荘〜岡島の告白(2)


 ところが、彼が乗り込んだ後すぐ、

 優子は信じられない光景を目にすることになった。

 ――なんてことするのよ!

 思わず浮かんだ思念と共に、

 ドアが閉まる寸前ホームへと飛び降りる。

 慌てて駆け寄る優子の前で中村透がもがき苦しみ、

 七転八倒を見せていた。

「本当のところ、突き飛ばされたのが本来の原因ってわけじゃない……でも間
 
 違いなく、それがきっかけになったことだけは確かだと思うんだ。かなり厳
 
 しい心臓の発作でね。緊急手術をしてしばらくは持ちこたえていたんだが、
 
 合併症もあって、年が明けてすぐに中村さんは亡くなった。それから優子さ
 
 んはずっと、ホームでおまえのことを探し続けたんだそうだ。どうしても許
 
 せない、一言残された家族に謝るべきだって言ってね。でも、受験間近だっ
 
 たってこともあって、優子さんは結局、武井……おまえを見つけることがで
 
 きなかった。だから大学で偶然出会った時、本当に驚いたって言ってた
 
 よ……」
 
 女子大に入学した優子が、

 2人と同じ大学のボランティアサークルに入部するのは、

 本当に単なる偶然だった。

 そして新入生歓迎コンパの日、優子は伏し目がちにしている武井を見て、

 すぐにあの事件のことを思い出した。

「でも優子さんは何も言わず、それで、不思議なくらいおまえのことを気にか
 
 けてくれた……それってなんでだか分かるか? 別に、おまえに惚れてたわ
 
 けじゃないんだぜ。彼女はな、おまえがどんな人間か知りたくなったって言
 
 ってたよ。確か夏休みが終わった頃、俺も優子さんと偶然、大学構内で再会

 しててな、だから驚いたんだ。おまえと付き合うかもしれないと聞いて、絶

 対に止めとくべきだって、心の底から伝えたことがある。その時彼女は言っ

 てたよ……おまえさんのそれまでの人生を知って、中村さんのことを、話さ

 ずにおくと決めたんだって……」
 
 そして、優子と付き合うようになった頃から、

 武井はサークルで孤立することがなくなっていく。

 自己中心的で、

 思い通りにならないとすぐにイジけてしまうようなところが、

 彼女のお陰で徐々に表れなくなっていった。
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