第3章 恐怖 -    飯倉薫(3) 

文字数 814文字

                 飯倉薫(3)



 ――まさか……ここが!?

 武井は着陸体勢に入ってやっと、

 その先にあるものが彼女の自宅であると確信する。

 ――いったい……彼女の両親は何をして、

 ――ここまでの財を築いたのだろうか? 

 武井の自宅など、まったくもって比較にならない規模だった。

 言ってみれば、

 ハリウッド映画に出てくる大金持ちの家そのもの。

 そんな大邸宅が、ヘリが降り立ったすぐ目の前、

 武井の視線の先にそびえ立っている。

 それから薫は、まだヘリが唸りを上げているのにさっさと降り立ち、

 まるで武井のことなど忘れてしまったようにひとりすたすたと歩き出す。

 武井もそんな薫に遅れまいと、強風の中に慌てて飛び出していった。

 そしてようやく薫の隣に追いついた時、

 パン!

 車のタイヤがパンクしたかのような音が響いた。

 驚く間もなく、続いて背後からもの凄い爆音が響き渡り、

 よろめくほどの熱風を背中に感じる。

 武井が驚いて振り向くと、

 さっきまで乗っていたヘリコプターが轟々と音を立て、

 その機体全体を、激しい炎が包み込んでいるのだった。

 きっと燃え盛る機内には、まだ操縦士がいるはずだ。

 助けなければ! 

 頭ではそう思ったが、彼の足はピクリとも動こうとはしない。

 燃え方が尋常ではないのだ。

 きっとジェット燃料タンクが爆発したのだろう。

 彼がそんなことを思い付くには、そう思うだけの理由があった。

 最初の銃声の後、驚いて向けた彼の目が、

 ライフルを構えた男の姿を捉えていた。

 そして、間髪を容れずの爆発音。

 ――ここにいてはダメだ! 

「お父さん! 」

 それは武井の思念と、まさしく同時に聞こえた薫の叫び。

「やめて! 」

 パン!

 再びの声に、2度目の銃声が重なり聞こえた。
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