第8章 収束 - 別荘〜撤収(3)

文字数 1,074文字

             別荘〜撤収(3)


 谷川は走り去る美咲の背中をしばらく見つめてから、

「じゃあ、機材班と、次の会場に絡むキャストだけはこのまま先に行かせま
 すから……」
 
 そう岡島に告げて、
 
 大型バスと2台のワゴン車に向かって大きく手を振った。

 それを合図に、3台分のエンジン音が響き渡る。

 そんな音を聞いて、岡島は武井の背中から、

 彼の見つめているその先へと目を向けた。
 
 2度に亘る爆発のせいなのか、建物は異様なほど早く燃え尽き、

 既に炎はほんの少ししか見えない。

 至るところで燻ってはいるが、もう煙さえほとんど出てはいなかった。

 そんな認知の後、

「全部、おまえのせいだぞ……優子さんがこれまで、どれほど苦しんできたと
 思ってるんだ!? これは、決して自殺なんかじゃない! おまえは、中村
 さんに続いて、自分の女房と、実の母親まで殺したんだ!! 」
 
 いきなり武井の背中に向けて、岡島が突き刺すようにそう言った。

 しかし武井は背を向けたまま、なんの反応も見せようとはしない。
 
 それでも岡島は、武井への声を止めようとはしなかった。

「くそっ! もうちょっとだったのに……これまではずっと、ほぼ予定通りだ
 ったんだ。なのにどうして……最後の最後で……」
 
 声を詰まらせ、岡島の目に涙が浮かんだ。

 そんな姿を、離れたところから眺めていた中津が、

 ちょっと意外だという表情を見せる。

 しかし岡島の激情はより高まって、

 とうとう嗚咽交じりの声を上げ始めるのであった。

「教えてくれ! どうして……どうしてこんなに早く……。なんで、金を持っ
 ていないはずのあんたが、タクシーになんか乗れたんだ!? どうして
 だ!? 教えてくれよ!! 」
 
 岡島たちにとってはそれが唯一、まったく想定外の出来事だった。

 そんな岡島の声に、武井はふと、

 ここまで連れてきてくれたタクシー運転手の言葉を思い浮かべる。

 きっともう一度やり直せるから、ぜひまた、呼んで欲しい、

 そう言っていた運転手は、別れ際には運転席から両腕を突き出し、

「きっとたくさんの方たちが、あなたの帰りを待っていると思いますから……
 くれぐれも、変なこと考えちゃダメですよ! いいですね! 」
 
 そう告げて、武井の手を力一杯握り締めた。

 しかし……。
 
 ――これで、俺を待っていてくれる人間は、

 ――とうとうこの世から、いなくなってしまった……。
 
 崩れていく建物を見つめながら、武井は心に強くそんなことを思う。
 
 そしてその時、

 ようやく武井の手から、

 鉄串が......芝の上へと転がり落ちた。
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