第3章 恐怖 – 飯倉薫(5)

文字数 826文字

                 飯倉薫(5)



「殺されるぞ! 逃げるんだ! 」

 2度目となる武井の声にも、薫はまったく従おうとはしなかった。

 それどころか、武井の手を振り解こうと、身体を左右へと揺さぶり始める。

 ――いい加減にしろ! 

 もしその声にも反応がなければ、

 薫を放り捨て走り出していただろう。

 しかしそうはならなかった。

 彼が息を吸い込んだところで、その声以上の効果ある現実が現れ出る。

 それは、ふたりの立つ場所から、

 10メートルと離れていないところへだった。

 劈くような衝撃音と、
 痛いほどの土混じりの爆風がふたりへと突然襲い掛かった。

 武井が驚いて斜め前方を見ると、

 土煙の中、地面に大きなくぼみができている。

 ――ライフルなんかじゃない! 

 そんな驚きと共に、武井は後ろを振り返った。

 すると遠くに、何かを担ぐ大柄の男が目に入る。

 屋敷の壁を背にして、
 男は明らかにライフルなどではない武器を2人へと向けていた。

 グレネードランチャー!?

 それは、手榴弾と同程度の爆弾を発射することのできる、

 まさしく武器といえる代物だ。

 きっとヘリを爆破させたのも、

 ライフルなどではなく、グレネード弾だったに違いない。

 彼がそう思うに至るのも、

 今まさにそんな爆弾が襲い迫っていたからだった。

「走るぞ! 」

 武井の声に被って、ヒューという飛来音が響き聞こえる。

 さすがに、今度は薫にも躊躇はなかった。

 3度目の爆発音を背後に聞きながら、2人は無我夢中で森へと走った。

 開け放たれた門を通って、舗装された道路を渡り森の中へと走り込む。

 そこは原生林ともいうべき空間で、5メートルと真っすぐ進めず、

 すぐに樹木や枯死木に邪魔される。

 しかし今にも、何かが襲いくる恐怖を感じて、

 2人は死に物狂いで走り続けた。
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