第2章 罠 - 消えたアメ車

文字数 842文字

           消えたアメ車 


 気が付くと、サイレンを鳴らしながら走る救急車の中だった。

 武井は交差点手前でハンドルを切り損ね、

 信号待ちをしていた車の後部左側へと突っ込んだ後、

 そのまま道路左手の電信柱に直撃していた。

 そして、突っ込んだのはアメ車らしい馬鹿デカい車だったと、

 通り掛った学生が警察に届け出たらしい。

 しかし救急車が到着した時には、車は跡形もなく消え去っていて、

 少なくともランプの破片くらいは散らばったであろうに、

 見事なまで事故現場からは何も発見されなかった。

 一方、武井への衝撃は相当なもので、頭部側面の裂傷に数カ所に及ぶ打撲、

 さらには足の脛骨を骨折という状態で、

 それでも車の状態からすれば、非常に軽い怪我で済んだと言えた。

 もしいくつものエアバッグが働いていなければ、

 命だってどうなっていたか分からないのだ。

 とにかくそんなわけで、

 武井は否が応にも数ヶ月の入院生活を余儀なくされる。

 そして、苦痛に満ちた入院生活に、

 武井がほんの少しだけ慣れてきた頃のことだった。

「で、どうだったんだ? 」

 病室に現れた秘書課の男へ、武井がいきなりそう声を掛けた。

 ところが男は、一瞬狐に摘まれたような顔を武井へと向ける。

「封筒だ、封筒。警察に聞いてくれと昨日頼んだろう? まさか覚えてないの
 か? 」

「ああ、すみません。ちゃんと聞いたんです。でも、そんなものはなかったと
 の一点張りで……」

 男はおどおどとそう答え、充分に不満げな顔を見せる武井へ、

「社長、封筒の中身っていったい何だったんでしょう? 具体的にその詳しい
 中身を、警察に届け出るように言われてしまったのですが……」

 と、そんなことを聞いてくる。

 万が一にも、本当のことなど言えるはずがないのだ。

 武井は不服そうにしながらも、

 なかったならいいんだと答えるしかなかった。
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