第2章 罠 - 消えたアメ車(2) 

文字数 769文字

            消えたアメ車(2)


 救急車を呼んでくれたのは、通りすがりの大学生であったらしい。

 その第一発見者が、事故車の中を覗き込み、

 写真や封筒を持ち帰ったとは、どう考えても思えない。

 あれは本当に……あったことなのだろうか……??? 

 それは記憶の片隅に、ずっとこびり付いて離れ行かない違和感だった。

 ――おい、これはいくらなんでもやり過ぎだろう? 
   まだまだ先は長いんだぜ……。 
 
 微かに耳に残るこんな声は、何か意味のあることなのか? 
 
 それとも、事故のショックによる単なる脳の混乱か? 

 ただ間違いなく、武井本人の不注意で事故は起き、

 散らばっていた写真1枚残らず、アメ車と共に消え去った。

 もし、あんな写真がマスコミの手にでも渡ったら……? 
 
 社長の座を引きずり降ろされるどころか、

 間違いなく彼の人生は、ある意味終焉を迎えることになるだろう。

 武井はそんな不安を振り払うかのように、

 日に日に己の食欲へと従順になっていった。

 不思議なほどに腹が減り、まるで病院食だけでは足りないのだ。
 
 たとえ一時満腹になっても、しばらくするとまた何か口に入れたくなる。

 だから日替わりで訪れる秘書たちへ、

 彼は次々と希望のものを買いに行かせた。

 しかし次第にそんなものでは満足できなくなり、

 とうとう行きつけのレストランへ自ら電話し、

 出来立ての料理を持って来させるまでになる。

 当然、病院側がそんなことまでを許すはずもなく……、

「好き好んでここに来た訳じゃない! こんな貧乏臭い病院なんざこっちから
 お断りだ! 」

 武井はさんざん大騒ぎした挙げ句、

 そんな捨て台詞を残しさっさと退院してしまうのだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み