第6章 反撃 - 別荘(3)

文字数 858文字

                 別荘(3)



 武井の見ているのも知らず、美咲は背後から誰かに呼ばれたのか、

 その顔をいったん建物の方へ向けた。

 その視線を追って初めて、

 武井はその人物の存在に気が付くのだった。

「あの野郎……」

 思わずそんな声が出た。

 なんとも柔和な笑顔を見せ、知っている顔が美咲に声をかけている。

 庭と建物の間に、リビングから繋がる白いウッドテラスがあって、

 そこに置かれた椅子に、なんとあの中津刑事が座っていたのである。

 彼は美咲へと二言三言何かを告げて、

 きゃっきゃと女性のような笑い声を上げた。

 ――これはいったい……何のお遊びだ!?

 突然、武井の中で何かが弾ける。

「これはいったい! 何のお遊びだあ!! 」

 心の中で唱えた通りに、気が付けばそのままを叫んでいた。

 彼は燃え盛る炎に向かって飛び出し、いきなり輪の中心へと躍り出る。

 さらに網で焼かれていた刀剣のような鉄串をつかみ上げ、

 刺さっていた肉片すべてを振り落とした。

「おまえらあ! ここで何をやってるんだあああ! 」

 鉄串を高々と掲げ、肺に残っていた空気すべてを吐き出し声にする。

 ところが、そんな勢いがすぐに行き場を失い、

 彼はその場で凍り付いてしまうのだ。

「いったい、どうして……? 」

 ――優子……。

 武井が睨み付けた中津の肩越しで、

 彼女はリビングから顔を覗かせ、

 今まさにテラスへと降り立とうとしていた。

 その傍らには飯田良子までがいて、2人の間には、

 あの小男の押す車椅子に乗せられ、なんと武井の母親までがいる。

「おまえらまで……いったいこれは……? 」

 これはまさに、視線の先にのみ向けられた声。

 そして再び……、

「いったいなんなんだこれはあ!? 」

 咆哮と呼ぶべき叫びが、辺り一面に響き渡った。

 硬直した両腕がピンと伸び、身体全体を震わせ叫ぶそれは、

 そこにいるすべての人間に向けてのもの。

「どういうことだ! 説明しろ! とっとと説明してくれ! 」

 武井は手にある鉄串を岡島に突き付け、

 鬼のような形相でそう続けた。
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