第93話

文字数 356文字

 長い夢の一部。
 中央に川のある町にいる。ヨーロッパらしい。ドイツだろうか。ヨーロッパで真ん中を川が走っている町は多いけれど。

 水が異様に澄んでいて、底に落ちている小さな折り畳み傘が見える。

 子どもたちが泳ぎながら水をすくって飲んでいる。
 飲み水なのね、と私が声に出して言う。
 陽光をなかば反射して、水の色が薄く緑がかったシトリンのように見える。岸の木立が川を両側からかかえこみ、葉の重なりの影を水底に落としている。

 水が清らかだということが、とてつもなく嬉しい。
 あまりに嬉しくて、私も川に飛びこむ。

 川は静かに静かに流れ、私はほとんど水をかかないまま、ゆっくりと運ばれる。
 私たち人の子以外に生きものの姿はないけれど、陽光と水のすべてにたっぷりと何かが満ちている。

 あまりに喜びが大きくて、何も考えられない。

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