第129話

文字数 752文字

 どこかに家族で泊まっている。両親、私と、たぶん弟。
 祖母か大叔母の気配。

 じっさいはもっと大人数らしくて、たくさんの夕食が配膳された広間。

 私は洋服から浴衣に着替えようとしている。寝間着がわりのでなく、ちゃんとした浴衣。
 その着替えようとしているのが大広間で、洋服を脱ぎきらずにかぶったままその下で着替えようと、小学生のプールみたいなことをしているから、らちが明かない。

 母が入ってきて、深刻そう。もうすぐ夕食だけれど、弟が実家の雨戸のようすを見に行ってしまって帰ってこないから、呼んで来なくちゃと言う。
 父が、自分が行くと言い、母が、いいえそんな私が行きますと言い、もめているので、私が行こうかと申し出ると、それは助かるということになって、よけいなことを言わなきゃよかった。後悔するけどあとの祭り。

 でも私、車の運転ひさしぶりだから大丈夫かなと言うと、母がびっくりした顔で、
 車はシュンさん(弟)が乗っていっているんだから歩いていくのよ
 と言って、まめのできた痛そうな足を見せる。赤いハイヒール。あんなハイヒールを母が履いているのを見たことがないから、母ではないのかもしれない。

 それはそうと、徒歩で往復したらどれくらいだろうかと、頭の中で見積もると、それが小学一年のとき通っていた川崎市下丸子小学校から当時の自宅(父の勤め先の寮)までの目算になっていて、
 かといってここは下丸子小学校ではないのだけど、
 航空写真のように灰色の濃淡に区切られた地図を想像する。

 そのうちに弟が帰ってきて、私は行かなくてもよくなった。
 雨戸を見に行ったはずだったのに、そうではなくて探し物だったのか、あったよ、と言って父に何か渡している。カフスボタンのようなもの。何か小さくて硬く、光っている。

 弟も父も、ひどく若い。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み