第125話

文字数 370文字

 一番ホームに電車がまいりますと言われていそいで行くけれど、電車の、影も形もない。

 こまって、てきとうにあたりをつけて、ホームから足を踏み出すと、なるほど線路に落ちずに歩けるので、そこに電車は来ているらしい。

 でも、それなら見えないなりに他の乗客や座席にぶつかりそうなもので、危ないじゃないのと思いながらふりかえると、
 湾曲したホームの縁から、どう見ても車両の幅より遠くへ私は来ている。
 つまり、車両を突き抜けてしまっている。

 おりから駅員がするどい声で、お乗りの方はお急ぎくださいと言う。
 白い手袋をはめた両手を水平にのばして、とがめる彼の目と私の目が合う。

 反対側、二番線から、ふつうに列車が出ていくのが見える。
 私はホームの高さの透明な平面に立ったまま、身動きできない。
 どうすればいい。

 小田急線の、登戸あたりの出来事であるらしい。

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