第95話

文字数 1,255文字

 ひさしぶりに夢。十二日ぶり。
 またおおぜいで住んでいる。寮?
 レーゲンスブルクだと思っているけれど、むしろ実家近くの団地。平たく続くコンクリートの壁が薄オレンジ色に見えるのは、塗料なのか、光の加減なのか。

 授業の休み時間にお菓子を買いに来ている。このあたりに美味しいお菓子屋さんがあったはずだと思ったとたん、出現する。
 けれども、いつもの優雅なカフェではない。

 スタンドで、ガラスケースにお菓子が並んでいて、店名だけが同じなので(その店名をいま思い出せない)、分店だったのかと納得して、お菓子を選びにかかると、
 いつもの優雅なケーキではない。

 カステラのまるく爆発したようなのばかりがあり、ゆいいつ味がわかりそうなのはクリームパフで(なぜかこの夢のあいだじゅう「シュークリーム」ではなく「クリームパフ」と思っていた)、そのクリームパフも、串に刺さっている。
 しかたなくその串刺しクリームパフを選ぶのだけれど、なんとなく気持ちがおさまらず、どうせならもう少し美味しそうなのを選びたくて、うろうろする。

 けれども店番のおばさんは、南ドイツ人らしく気さくなわりには不親切というかマイペースというか、早くしなさいと目でせかしてくる。
 私、あきらめきれずにもう一度ケースをのぞきこむと、もうケーキは片づけてしまって、昼のサンドイッチをたくさん並べて白いふきんをかけてある。おばさんは私に見せるともなくそのふきんをちょっと持ち上げて、さりげないふうをしているのが小憎らしい。
 しかたなくクリームパフをレジへ持っていこうとすると、さっきまで手に持っていたはずなのに、ない。
 とうとうお菓子を買いそこねた。

 私は本当は熱を出して寝ていて、家にいなくてはならないはずなので、そっと歩く。
 鉄の美しい柵のある橋を渡る。
 ブルックリン、なのかもしれない。

 そして、空になった布団を見て母が心配しているはずの家には着かず、寮の中を歩いて、教室に入る。何か地質学のような授業だけれど、じつは教えている人々が魔法使いなのだ。
 私が生徒としてへまをやる、つまり黒板に書く答えをまちがったりすると、担任の教師のさらに格上の魔術師が現れて、ひとこと言う。つまりは担任の教師を成敗するということらしい。

 それは大変だと思って、私はつたないながら規則どおり韻文で(韻文?)、
 あなたがたは人を人とも思わないのですか、
 という抗議をしてみる。
 いちおう正解だったらしく、大魔術師はみるみるふくれあがって、それでも許してくれず、なにやら危ないことになってきたとき、

 きゅうにみんなが騒ぎだし、窓から廊下を見ると、
 火山の噴火の土石流が流れていくのだ。

 悲鳴のような歓声のような声をあげてみんな逃げ出す。私も、これでおとがめなしだと思って、ほっとしつつ逃げ出す。土石流はきちんと廊下にそって流れ下っていて、教室には入ってこないから、まわりこめば外へ逃げられるのだ。

 壁に並べて貼られた習字の紙などがはたはたして、逃げていく私たちの背中に白い印象を残す。

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