第37話

文字数 993文字

 その前に見ていた夢。
 実家のリビングダイニングにかぎりなく近い部屋だけど、なぜかおおぜい入れる。
 いまからドラマか映画の撮影をするらしい。
 
 私の左隣に、ヒロインに抜擢された若い女の子がいる。私は素直に尊敬するけれど、その子、きれいでも感じがいいわけでもない。
 私は例によって遅刻して、撮影に入るに当たっての彼女のスピーチを聞き逃したらしい。だから彼女はちょっとつんとしている。
 まあいいやと思う。
 
 私のほうから話しかけると、彼女もなにやら熱心に語り出すが、滑舌がわるくて何を言っているのかわからない。
 こまっていると、きゅうに庭に集合ということになり、これまた広い。実家の庭のはずなのにとても広い。
 
 私はちょっと暑いので、何枚か重ね着しているうちのどれかを脱ごうと思う。クリームイエローのカーディガンとか(そんな服持ってない)れんが色のシャツとか(それも持ってない)。
 どれを脱ごうか洗面所の鏡の前で悩んでいると、ヒロインとは別の、とても感じのいい女の子(誰)が呼びに来てくれる。彼女について庭へ出て、並ぶ。
 
 いつのまにか私はヒロインを取り巻く友だちの一人の役になっていて、もうテストカメラが回っている。
 庭からまた室内に戻ってテーブルを囲む。
 ヒロインが幼なじみの美形の青年と結ばれる。
 さっき私を洗面所まで呼びに来てくれた感じのいい子が
「○○ちゃん(私の役名)、モチヅキくんはどうなの?」
と私に言い、私が
「えーわたし、ずっとモチヅキくんが好きだったのに!」
と台本どおり言うと、庭からその《モチヅキくん》が現れ、私の隣に座る。でもとくに嬉しそうではないので、残念。
 
 その感じのいい女の子も別の男の子とカップルになって、ややしらじらしい幕切れ。
 こういうのってどうせみんな一、二年で別れるのよね、などと私、さめたことを考えながら、それもこれもみんなお芝居だから、気分はたのしい。
 
 モチヅキくんを演じていた男の子は、高校の同級生だったサトウくんに似ていた。
 サトウくんは、ひとことで言うと、本当に感じのいい人だった。
 彼に本気で恋をしていたわけではない。たぶん私は、彼を恋するのにふさわしいような爽やかな女の子になりたいな、と、一瞬夢を見たのだ。そして、その夢がけっしてかなわないことを知っていたから、たのしかったのだ。
 サトウくん、元気でいるだろうか。
 北海道の人だった。

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