第61話

文字数 818文字

 夢に又吉直樹さんが出てくる。私たち、おつきあいしているらしい。
 又吉さん、又吉ファンの皆さん、本当に本当に申し訳ございません(土下座)。ご心配はいりませんので(何が)、どうか最後までお読みください。

 彼のバン(運転手つき)に乗せてもらうと、大きくてきれいな犬が二匹乗っていて、その犬たちともなかよくなれて私はとても嬉しい。
 首をぎゅっと抱くと尻尾をふっている。

 車ごと空からゆっくり落ちて軟着陸する。空気抵抗のせいでゆっくり落ちるの、と私、怖いのをがまんして誰かに説明している。
 誰に。

 又吉さんが住んでいるのは実験室のような部屋で、ガラスの試験管がたくさん立ててある。
 又吉さんは新進気鋭の化学者で、大学院で教鞭を取っておられるらしくて、学生さんから論文の下書きが送られてくる。それがクール宅急便の箱で届いて、発泡スチロールの箱に原稿がきっちり詰められて液体窒素で冷え冷えになっている。
 なぜ。

 大きな液晶テレビから大音量で音楽が流れてくる。私が直前に見た夢のとおりの映像なので驚く。戸外の、田舎の駅のプラットホームでおおぜいの人がモダンバレエを踊っていて、すらっとした衣装。そのまま彼らが流れるように線路に降りて走っていくと、海。
 レーゲンスブルクだね、と又吉さんがつぶやくので、私、さらに驚く。
(レーゲンスブルクに海はありません。)

 いつのまにか私たちもスクリーンの中に入って、バスに乗っている。
 又吉さんが私の肩に頭を乗せてくる。このへんから又吉さん三割、真澄さん七割くらいになっている。はずかしいけれど、嬉しい。
 幸福感にひたりながら、

 どうせ彼はそのうち私に飽きるのだから、と思う。
 幸福感より、そのあきらめの、解放感のほうが大きい。

 バスのガラス窓は開いていて、石壁に木々の緑が流れていく。


※文中の又吉直樹さんはもちろん私の夢の中の又吉直樹さんで、現実の又吉直樹さんとは本当になんの関係もありません。あたりまえですけど。

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