第166話

文字数 390文字

 青眼、という言葉が、昔から気になっていた。
 嬉しいお客を迎えるときの喜びの目だという。

 アジア人の目は青くないのに、どうして青い眼と言うのだろうか。

 ところが、いま父と話していて、ふと目を見ると、青いのだ。
 白目と黒目の境が澄んだ藍色で、やや緑がかっている。

 あわてて母の目を見ると、澄んだところは茶色で、もちろん青くない。

 猫の目のことを思い出した。
 猫の目の色にも、琥珀色などいろいろあるけれども、生まれたばかりの子猫の目はみな一様に、ブルーグリーンなのだそうだ。
 たしかに、子猫の映像を見ると、みんな湖のような目をしている。

 父の目の色が、それと同じだ。

 緑内障の影響だろうとは思う。それでも、父の目は、見れば見るほど、生まれたての子猫と同じ、湖のような澄んだ色をしている。

 その目で父が、ひさしぶりのわが家を見、母を見、私を見ている。



―夢百夜 巻二 完―
(巻三へつづく)

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