第152話

文字数 919文字

 村の空き地に子どもたちが集められ、整列している。その一班を私が教えるらしい。
 こんなにたくさん? と思っていると、だんだん分けられて、二十人くらいから、最後は八人くらいになる。
 その子どもたちが、よく見ると意外に大きい。高校生か大学生くらい。
 その子たちに科学を教える。
 科学はわからない。

 教科書があるからそのとおり教えればいい、と言われるのだけど、その教科書がわからない。A4版横書きの、余白に書きこめて使いやすそうな教科書だけれど、中身が一字もわからない。
 子どもたちも心得ていて、気の毒そうな顔で私を見守っている。私の担当に当たった彼らこそ気の毒だ。

 教科書どおりでええやん、と言ってくれたのは、私のそばに二人の男の人がいて、その一人。桂文珍師匠に似ている。
 そのうち師匠自身が話を始めて、子どもたちに解説している。この二人は私をサポートするために派遣されたプロフェッショナルの科学者さんだったのだ。

 もう一人の人も、名前は思い出せないけれど私の大好きな咄家さんに似ていて、いつか『井戸の茶碗』が絶品だった人で、こちらは静かに穏やかに話をしている。たぶん量子力学とか、そういう。

 教科書の目次に統計学があって、これは文系だからやらなくてええねん、と文珍師匠が助け舟を出してくれる。
 というか、そもそも私、この場に必要ない。

 昭和初期の、苔むした緑の空き地だったはずが、私たちは移動して、三面がガラス窓のビルの角部屋にいる。床はグレーのパンチカーペット。建物全体が改装中らしく、まるめたボール紙やなんかの資材があちこちに散乱している。
 その中で師匠たちの、楽しくて超難解な授業がつづいている。 
 私も教えなくてよくなったので、いっしょに授業を聞いている。
 三面の窓から日光がふりそそいでまぶしい。
 教科書の白いページが反射する。

 声だけが残る。


※全文、ほぼ起きてすぐ書いたメモのままです。
※文中の桂文珍師匠はもちろん私の夢の中の文珍師匠で、現実の文珍師匠とは関係ありません。
※もう一人の師匠は、当世(十一代)金原亭馬生師匠でした。『笠碁』も絶品でした。もちろん私の夢の中の馬生師匠は現実の馬生師匠とは関係ありませんが、大好きです。

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