第103話

文字数 1,255文字

 そのつづきだろうか、
 何かひろびろと気持ちのいい、温泉の休憩所のようなところにいて、木造で二階で、大きな窓がたくさん並んでいて明るい。
 窓枠には腰かけられるのだけど、窓の外は白くまぶしく、どうなっているのかわからない。

 それなのに朝、お湯も浴びずに出かける。

 早起きして、私は学生のときのような背負いかばんの軽装で、宿にはミヤザキさんもソノさんもいるのに、なぜか誰の指示もあおがず、ふっと出てしまう。
 気がつくと小さな車をひとりで運転して走っている。

 道はほとんどまっすぐで、平らな田んぼや造成地や、ときどき何かの煙が白くたちのぼるところを行く。
 私の運転がおぼつかないので、私自身も、出会う車の運転者たちも不安だ。わざとぶつけられそうになり、どきどきして、ひたすらゆっくりまっすぐ走る。
 ひとつふたつの十字路を越えて、
 やっと、どこへ行くのだったか何も聞いていないことに気づく。

 大変なことをしてしまったと思うのに、直進するばかりでUターンできない。とにかくどこかに車を寄せて、連絡しようと思い、ちょうど左に見えている高架の下へもぐりこむように左折する。

 とりあえず車を停めて、駅前のひさしの下に立ち、かばんからスマートフォンとノートを取り出す。スマホはタブレットほどの大きさに広がってしまっていて、使いにくいことこの上ない。
 ノートのどこかにミヤザキさんの番号がメモしてあったと思い、見つけて、かけ始める。でもゼロサンからなので、携帯番号ではなく自宅だ。いまミヤザキさんはあの休憩所のようなところにいるのだから自宅にかけても意味ない、と気づき、途中でやめる。
 八王子、という看板の文字。まのびしている。

 まわりに列をつくりはじめた人たちの一人が、いらいらと何か言ってくる。黒髪黒目だけれど濃い顔立ちで、言葉も日本語ではない。
 なのに、列に並んでいないならそこをどけ、と言われたことがわかって、私、しどろもどろに返事して、少し場所をよける。

 気がつくと、ほかの人々もみんな日本人ではない。
 駅の中は外国のようで、

 けれどもいま立っている正面には、よくある黄楊(つげ)の木の刈りこんだのが植わっていて、八王子かどうかはわからないけれども、やっぱり日本にちがいない。

 そうだ実家に電話しようと思いついて、ゼロヨンニイサンを押すと、母が出る。
「ちょっといい?」と言われる。
 一呼吸おいて、
「私はもういやだ、アヤちゃんの心配するの」と言われる。

 それに重ねて私も、
「私ももういやだ、これ以上心配かけるの」
と大きな声で言う。「ごめんね、本当にごめんね」などと言う。

 私が大きな声なので、まわりに並んでいる黒髪黒目の人たちが、こちらを見ている。

「それで、どうするの」とあきれたように電話口で言う母が、いま涼しげな縁台にいて、手桶に朝顔がからんでいるのがわかる。テレビ電話ではなくてふつうの電話なのに。

 夢の途中でいったん醒めかけたら、みっしりと雨が降っていて、雨だな、と思って、また夢に戻った。
 夢のどのあたりかはわからない。

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