第108話

文字数 887文字

 また、夢によく見る木造の建物で授業を受けている。

 正確には、いまから受けに行く。実家にいて学生に戻っている。
 朝9時。連続テレビドラマをやっている。8時から15分の放映だから終わっているはずなのに、まだやっている。BSの再放送なのかなと思う。
 けれども母が消したのか、自動でなのか、途中で消える。たしかにたいして面白くなかった。消す直前、松嶋菜々子の玉子のような顔が白く映っていた。何かに絶望しているようすだった。

 いまから家を出てもまにあわない、と思う。9時だったはずなのに、午後一の授業にまにあわないらしい。
 哲学なのだ。
 一度聞いてわからなかったから、教科書も買っていない。

 きゅうに、せっかく社会人入学をしたのに(そうだったのか)これでは卒業できないと気づいて私、あせりだす。この哲学を取らないとだめなので、いまさらながらぼうぜんとする。

 家の二階にいて着替えていたはずなのに、布ナプキンに血が染みていて、捨てたいと思って見まわすと、広い木のデッキのような所にいる。
 脇に用水路のような溝があって、ひじょうにきれいな水が流れている。はじめは手の幅くらいに見えたのが、いつのまにか入って泳げるくらい広く深くなる。金魚のような、鯉のような、白に朱の斑の入った美しい魚が何匹も、丸い口をあけて泳いできて、通りすぎる。と見たら、魚ではなく、私の掛け布団が流されて、浮いているのだった。
 泣く泣く引き上げると、重い。

 その布団をデッキの上の物干し竿に干すと、その下に集っている人々が、いまから出るはずだった哲学のクラスメートだ。布団から水がぽたぽた垂れるから、みんなけげんな顔をしている。外国人ばかりのようだ。

 その人たちの中に加わるのはあきらめて、布団をくぐり抜けて向こう側へ行くと、飲み物のスタンドがあって、オーケストラが並んでいて、今度は音楽の授業をやっている。
 私も歌おうとするけれども、音程が合わない。

 スタンドのカウンターごしに、何かはずかしい言い訳をした気がする。しかも笑って許された気がする。

 けっきょく、私、誰にも期待されていないのだ。
 のどだけが渇いた。

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