第52話

文字数 1,411文字

 ひさしぶりに愉快な夢。芝居の夢。

 演技空間は舞台上ではなくてあたり一帯なので、映画かというと、カメラが回っているわけでもなく、それでも本気で、楽しく演じている。
 この私ではなく、若く細くて身もかるい。時代がかった衣装をつけているけれど、手作り。
 
 話の内容は、ドン・ジュアンとシラノ・ド・ベルジュラックを足して二で割った感じ。ミヤザキさんがドンジュアンかシラノか、とにかく主役を演じていて、私は従者役(このパターンの夢多い)。
 場所は、古風な雰囲気を生かした近未来の大学の中庭らしい。ここ、前にも見た。初夢かそのあたりで、人形劇を見せにきた建物だ。覚えている。(※本当に初夢と同じでした。)
 
 ミヤザキさん演じる主人公は、名うての詐欺師で(やっぱりドン・ジュアンかな)、おおぜいの若者に囲まれて演説をぶち(そこはシラノだな)、みなを煙に巻いている(これは両方か)。
 たいした人だかりで、私からはよく見えないのだけど、私もその悪だくみに加わっている設定なので、さすがご主人さま、って得意。
 
 と、私、知らない女の人に話しかけられ、へどもどとごまかす。その人、髪が多く目も大きくて見おぼえのあるような、ないような。
 彼女によると、これ、トマトの皮をきれいにむく講座なんだって。しかも縦長の大きな、ちょうちんのようなトマト。
 
 あまりにぎっしり部屋に(え? さっきまでオープンエアだったのに)人が詰めこまれていて、私は厚いビニールの暖簾を、冷凍庫にあるようなぶあつい暖簾、でもここ寒くなくてむしろ暑いんだけど、そのビニールの暖簾をあいそ笑いしながら閉めて、トマトがどうとか言ってるその女の人を無理やり閉め出す、彼女、うさんくさそうにこちらを見ている。
 こまった私、そそくさと隣の部屋に移って、アンサンブルに混じって歌の試験を受ける、私だけひどく下手なので、先生がふりむいて、また不審そうな顔。
 
 そのうち、さっきまでいた隣室がさわがしく、どうやらついにドンミヤザキの嘘がバレたらしい。わわー。ドンミヤザキ、袋叩き。折り重なる人の山の下敷きになっている。私もこっちで同じ目に遭う、わー! でも従者だけに乗っかってくる人の山の規模も小さく、私はうんとおおげさに痛がってみせてなんとか脱出。
 
 脱出したと思ったら、あたりはきゅうにしんとして、私は泣き声で
「あの人はどこ?」
と叫ぶ――
 というのがこのお芝居のクライマックスらしい。なので、私、がんばって泣き声で叫ぶのだけど、声が不自然に大きすぎて、隣の女性(あっテルちゃんだ)に目でたしなめられる。
 へへーんだ。
 いまから布団蒸しになったご主人さまを助けに行くのだ。えらいぞ私。
 
 優雅にテルちゃんの腕を取り、ちょっと気どって、行きましょう、なんて言って、軽やかに駆けだすとき、袖の縞の部分のつぎはぎをちょっと気にしたりして。
 その袖はふっくらとして、私、いつのまにかスカートをはいている。どうりで言葉づかいもきゅうにお嬢さまらしくなってしまったのだ。
 
 いろいろめちゃくちゃなのに、なんともないふりをしてごまかして、さ、行きましょう、なんてまた言ってかろやかに走っていくのを、私自身がこちらから楽しく見ている。
 
 どうやらそろそろお芝居はおしまい。誰もいなくなった砂地のグラウンド、小学校の校庭のような。
 そこへ私が、つまり、こちらから見ていた私が足を踏み出したところで、終わった。

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