第92話

文字数 709文字

 ほっそりした、小さなうさぎを、先日から飼っている。先日というのは、前にも夢に出てきたはずだからだ。

 飼うというより、実家の居間にいてしまって、両親も驚いている。
 少し青みがかった淡い灰色の、毛皮というよりすりきれたベルベットのような布に近い肌をしている。耳をぺったりとそろえて後足で立ち上がっているので、全体として細長く、まるっこいうさぎの可愛らしさがない。
 静かにそこにいる。

 両親も私も、姿は見えないがたぶん弟も、とほうにくれている。じゅうたんをかじられでもしたらこまると思うけれど、とくにそんな気配もない。ただ、静かにそこにいる。

 居間の明かりは平凡なシャンデリアなのに、なぜか蛍光灯のあの紐が下がっていて、

 先に虫がとまっている。
 かまきりに似た形で薄緑で、腰の部分だけがくくったように薄紅だ。何か悪さをするわけではない。ただ、ゆっくりとうごめいていて、落ちつかない。

 すると、うさぎが、すっと首をのばして、そのかまきりを食べた。
 美味しそうにというよりは、そうなるのが当然といったかたちだった。

 両親も私もあっけにとられ、それから興奮しだした。
 もしかしてこのうさぎには虫を食べさせればいいのか。というより、もしかしてこのうさぎは、わが家に最近わいて出てこまる(ということにきゅうになった)かまきりを食べるために現れてくれたのか。

 そんな都合のいい話もないだろうと、心で否定しながら、さっきまで得体のしれなかったうさぎを、もう大切に飼うという方向になっている。もっとかまきりがいないか居間を探しさえしている。

 当のうさぎは少しも変わらず、ただひっそりと、そこにいる。


※うさぎの夢を見るのはこれが初めてです。

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