第62話

文字数 706文字

 知らない町で父とはぐれる夢。
 
 白っぽい石畳、むやみに坂が多い。何か大きな団体旅行で来ているらしいのだが、とにかく父とはぐれた。母もいない。
 
 なぜか男女が分かれて引率されているようだ。
 女性のガイドをつとめているのは、もともとはブティックのオーナー兼デザイナーらしくて、洒落た浴衣をまとい、なぜ自分がこんな目に、などと言って納得いかないようすだけれど、私にも、そもそもなぜ彼女が出てきたのか、彼女が誰なのかわからない。
 
 薄暗いガレージのような所で、闇市。ベルトの競売をしている。飛び交う声が中国語だ。
 私は関わらないようにして通りすぎようとして、気がつくと、ベルトを一本つかんで噛んでいる。
 これでは売り物にならなくなると思うのに止められない。
 
 女性のガイドは蛇の目をさして坂を昇る。
 
 私は台本の添削を始める。それがきちんとできれば父に会わせてもらえるらしい。
 だがガレージのような所で立ったまま作業をしているので、そのうちひどく汗やほこりにまみれてしまう。
 
 その闇市の従業員たちだかが使う銭湯に入る。
 タオルも着替えもないのに、がまんできずに湯に入ってしまい、全身ずぶ濡れでとほうにくれる。
 むかしの同級生らしい女の人(誰)が、何かしてあげようか、服を取ってこようかと親切に言ってくれるので、思いきって、コインを渡し、これでタオルの大小セットを借りてきてくれない? と頼むと彼女は、わかった、私もタオル欲しいし、他にも余っている人がいないか訊いてみると言いつつ、脱衣場に消えていく。
 
 本当によかったのか。
 どうしたものだろう。
 私、体は乾かせるのか。
 台本は清書できるのか。
 
 父とは会えるのか。

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