第31話

文字数 875文字

 坂の多い町に住んでいる夢。
 ひとところに集められ、おおぜいと作業をしている。
 なんの作業?

 採点、らしいけれど、ちっとも採点らしいことはしていない。
 ガレージのような、工房のような、がらんとした空間で、おのおの体を動かしている。
 
 たくさんの花をむぞうさに投げ入れた、大きな花入れがある――ような気配。
 私は誕生日プレゼントをもらう。きれいな絵の具セット。
 とても感激する。
 
 作業の途中でぬけ出して、店の連なる角を曲がって、自宅らしい所に帰った。

 中は広くて、木づくりの手回しオルガンがあり、回すとここちよい音が出る。でも、回す木のきしみのほうが大きくて、かんじんのオルガンの音がよく聞こえないので、私、からだを傾けたり、立ち位置を変えたり、いろいろと試す。
 
 ふと見ると、
 部屋の反対側に機織り機のようなからくりがあって、やはり大きな木のオルゴール。布を張ったように見えるのは、穴をあけたシートが流れていくのだ。
 私が手を放しても私の手回しオルガンは鳴りつづけ、オルゴールと二台で合奏になるので、感心する。
 さらに奥に感じのいい知らない女の人がいて、一心にハープを弾いていて、それも合奏になっている。
 
 そのとき電話がかかってきて、
「みんな作業を再開するので待っているけれど、先生いまどこですか」
と訊かれる。

 私、あわてて「いま行く」と言い、「具合がわるくてちょっと横になっていたの」とうそをつく。電話の相手は私に絵の具セットを贈ってくれた人で、たぶんむかし同僚だったタジリさん。
「みんなに『絵の具なんてだめだ本にしなさい』と言われました、ごめんなさい」
と言うので、「絵の具のほうがずっといい、本なんて誰でもくれるもの、わたしうまく絵は描けないけど大切に使うよ」と思わず大きな声で受話器に向かって言うと、タジリさん、そうですかと嬉しそう。
 私も少しほっとする。今度は本当のことを言えたから。
 
 それにしても、向こうにある、機織りのような白いシート式の大きなオルゴール。気になる。
 
 かえりみられていない、青磁の大きな壺の傘立てが、ある――気配。

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