第36話

文字数 551文字

 帰宅する。坂の途中の家、石垣、瓦屋根。弟と二人で住んでいる。
 家の裏の坂を登る。土で、ちょっとした崖のような斜面。
 
 坂の途中に、タコがうずくまっている。
 
 犬猫ではなく、小豆色のタコ。またいで通ろうとして、いきなり噛みつかれる。くわばら、くわばら。
 裏山だから、すぐに頂上に着く。足に噛みついていたタコをはずして、置いて下山する。
 帰宅すると弟が昼食を作って待っていてくれる。そうめんを茹でただけだけど。
 
 弟に感謝して食卓に着こうとしていると、扉の向こうで物音。
 怒ったタコが追いかけてきたのだ。
 
 思いきって中に入れてやると、木のたらいの中へ入りこみ、そうめんをがつがつ食べている。
 私は襲われないのでほっとしていると、今度は弟が怒りだし、僕が茹でたそうめんだと言ってタコから奪い返し、皿に盛って私に差し出す。
 私、驚いて、たしかにすまなかったと思う。
 
 器のなかのそうめんは、弟が先に茹でた分はほんのり暖色がかった白で、タコからとり返した分は半分透きとおるように青みがかり、太さもあって、そうめんというよりくず切りのようだ。
 
 食べ終えたタコはおとなしくなる。タコというより猫のようだ。
 また山へ捨ててこなくてはと思うけれど、
 
 そんなことより、弟がそうめんを茹でてくれた感激のほうが大きい。

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