第40話

文字数 614文字

 道のいりくんだ静かな町に住んでいる。
 
 わたし若くて学生。翻訳家のタマゴらしい。同じようなタマゴたちの住む区画に住んでいるらしい。
 タマゴ同士で小さな部屋に集まって、翻訳した部分を発表しあっている。
 そろそろ私の番が来るという、そのとき、
 きゅうに大きな会議室になって、みんなつぎつぎに手をあげて何か言う。

 まだ訳されていない作品を挙げて、自分が訳したいと名乗り出ていいらしい。
 それならと私も手をあげて、闇の左手、と言う。
 もう半分くらい訳してますと言う(本当です)。
 
 司会の青年(誰)が
「作者は誰ですか」
などと訊いてくるので、がっかり。ル=グウィンの代表作なのに。
 年輩の先生(誰)が私の横を通りすぎながら
「君のせいでもう一度やり直しになるじゃないか」
と苦々しく言う。ますますがっかり。

 私、場違い。
 
 廊下に出るとロッカーが並んでいる。
 よくあるスチール製ではなくて、薄い合板で観音開き。
(起きてから考えたらそんなロッカー見たことなかった。)
 別の年輩の先生(誰)がそのロッカーから何か(何)取り出しながら、彼のお孫さんが小学校で歌を歌って寸劇をしたという話をしている。
 わたしの通った小学校らしい。
(起きてから考えたらそんな小学校出てなかった。)
 
 とにかく私、その偶然に嬉しくなって、老紳士にいろいろ話しかける。
 彼は品よくにこにこと聞いてくれて、おかげで私も気もちがほぐれる。
 
 柔らかい木のパイプオルガンの音。

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