第66話

文字数 755文字

 いま見たばかりの夢で、かなりはっきり覚えているけれど、言葉で説明するのが難しすぎて、ぼうぜんとする。
 動き、色、人の形、語られた台詞、心の動揺が残っていて、それでも、何が起こったのか、私が誰だったのか、よくわからない。
 
 たぶん三階建ての、小さめの集合住宅ほどの建物にいて、母、私、などが大家として住んでいる。住んではいないかもしれない。仕事場として通ってきているのかもしれない。それにしては、私たちは始めから「いて」、他人を「迎えて」いる心構えだ。
 
 私が蜂になって三階へ行く。
 それも、じっさいに蜂になってはおらず、「ふり」だけ。三階というのも、そんな感じがするというだけ。
 
 学長のT**がいて、たくさんのケーブルをつけた旧式のパソコンで仕事をしている。

 いや、それも正しくない。私が先に部屋に入って、蜂だから、飛び回っていると、誰か来るというので、めくった毛布の下に隠れさせてもらう。
 その「誰か」がT**なのだが、
 毛布をめくってかくまってくれるのが誰かはわからない。真澄さん?
 
 T**が入ってきて、出ていく。
 それについていくと、先のパソコンコーナーに着く。
 毛布をめくってくれた人、一階で息をひそめて待つ人たち、皆で結託して、T**とT**にへつらう者たちを、うまいことあしらおうとしてくれている。

 T**は上機嫌で私を飲みに誘う。私は蜂だったはずが、いつのまにかふつうの格好に戻っている。パソコンの太いケーブルを二三本抜いてやると、T**が何か叫ぶ。私、駆けだして、一階の母のところへ行く。小学校の校舎のようなガラス窓と、土間。
 母は大きな台所で、柔らかい色の和菓子をたくさん蒸している。
 
 何か、解放感。ひじょうに強い。
 
 土間に光が落ちている。
 明るいのは、たぶん壁が白い漆喰だからだ。

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