第163話

文字数 480文字

 退院した日の夜に父が見た夢。

「夜中の2時までは本当によく眠れてね、ああ、眠りというのはこういうものだったんだと思って嬉しくてね」

 父は入院中、昼夜が逆転してしまったり、同室の人がひっきりなしに叫ぶのに悩まされたりして、かわいそうに、うまく眠れなかったらしい。

 2時に目がさめて、お手洗いに立った。いまの父には、ひとりで立ち上がってドアを開け、3メートル先のお手洗いまで往復するのは大冒険なのだ。それでも無事に生還し、

「それから眠れなくなっちゃってね。さっきまで眠れたのにと、思えば思うほど眠れないんだ。もんもんとしていたら、ふっとオガサワラくんが出てきてね。昔、オガサワラくんというのがいたんだ」
 職場の部下で、たいそうよくしてくれた人だそうだ。

「こんなふうに道のわきに立って、どうして私だけ連れていかないんですかと言って怒っているんだ。なんでそんなに怒るんだろう、弱ったな、と思ってて、ひょっと、あれ、オガサワラくんが出てきたということは、これは夢だな。そうするといま、ちゃんと眠ってるんじゃないか。なんだ、よかったと思って、それから寝た」
と言って笑った。

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