第75話

文字数 620文字

 多層の建物で、温泉宿のようでもあるけれど、劇場の楽屋。
 宿泊もしているらしい。団体で、数人ずつに分かれて。
 暗い廊下の片側に個室が並ぶ。もう片側には巨大なエレベーター、舞台に直結している。たぶん。

 私の部屋は何度も変わる。
 事情は忘れたけれど、そのたびに混乱する。

 三度めか何かに鍵をもらうと、三つもついている。一つなど金色に光っている。べつに金ではなく、たんに古びてメッキが剥げた態。
 私の部屋、この部屋のはずだ、と思って立ち止まると、
「外出中、すぐ戻ります」
と札が下がっていて、混乱する。
 私の部屋ではないのか。

 とにかく隣の部屋か、さらにその隣の部屋か、そのへんに父がいて、そこに入れてもらう。
 いそいで着替える。もうすぐミュージカルが始まるところで、私も端役で出るらしい。
 上に着る長いシャツブラウス、黒っぽくてつやがあり、めだたない程度に紫の縦縞が入っていて(そんな服持ってない)、それを、ふと思いついて、すそを入れずにはおるようにして、
 どう?
 と父に見せると、
 いいんじゃない?
 と父、快活。

 この黒と紫のシャツでなくて、もっと明るい紅殻(ベンガラ)色のシャツにすればよかったかな。でももう時間がないな。
 と思ったとたんに、紅殻色のシャツに替わる。
 替わったとたんに、もとのほうがよかったと後悔する。

 そのまま楽屋へ走る。
 演目、『キンキーブーツ』のはずなのに、学園もの。
 私、なんの役? こんな役の出る場なんてあったかな?

 ないはず。

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