第85話

文字数 566文字

 長い夢の最後。何かのドラマの収録を見ている。
 やせた女優さんが二人「くの一」のようにとんだりはねたり回転したりしている。
 私、感心する。
 女優というからにはやっぱりこれくらいできないとね、私は女優じゃないな、と改めて実感。

 片方の人が少し色が白く、もう片方の人のほうがからだがよく動く。
 動くほうの人がわざとゆっくり側転したとき、山吹色の下着が見えて、スポーツのショーツだから見えていいんだけど、なんだ、そういう番組だったんだとサクバク(索漠)とした気持ちになる。女優なんてそんなもの。

 色白のほうの人が何か台詞を言う。でも棒読みの上に声が小さくて聞こえなくて驚く。
 そうして、ちゃんと客席に台詞を届けるのも側転やバック転と同じく《技》なんだと改めて悟り、テンケイ(天啓)に打たれるというか、ガゼン(俄然)元気が出る。

 そこからきゅうに話が飛ぶ。

 台所へ行くと、ひじょうにきれいにみがいてあって、洗剤などの位置も変わっていて、真澄さんだなと思う。
 シンクや棚にみがき粉が白く残っているのを、私が古い台ふきんを小さく切った布で仕上げ拭きしていたら、真澄さんが起きてきた。眠そう。
 今日はお仕事ないのと訊くと、うん、だから泊まれたと言う。
 嬉しくて彼の首にかじりつく。

 見たことのない台所だから、いろんな給湯室が混じっているのだろう。

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