第113話

文字数 1,139文字

 長い夢。前半はもう思い出せない。
 またおおぜいでひしめきあって泊まっていて、ロッカールームで着替えなどしていたように思うのだけれど。たしか皆若くて、私も。

 そのうち男女四人で池袋西武らしいデパートの地下の食料品売り場に来たようで、ここもごった返し。何をしに来たかわからないけれど、とにかく用事がすんだらしくて、帰ろうとすると、

 真澄さんが、
 ごめん、もう帰らないと、
 と行ってしまって、あとの二人も(よく知っているつもりだったのに誰だか思い出せない)私をまいて二人だけでどこかに行ったらしく、姿が見えない。

 私、しょんぼりして、

 なにやら高級な木製の文具を売っている書店の前で立ちどまって見ている。
 渋谷の三叉路。濃い茶色の木で作った小さな動物たちがお盆に飾られている。鹿とか兎とか。
 その動物のミニチュアたちについてのアンケートを書いてほしいと、きれいな若い女性店員がにこにこして言う。

 私、そこにそろえて置いてある一筆箋のような形のアンケート用紙に書き始めると、それがもう記入済みの束だと気づいて、店員さんにそう言う。
 店員さんはあわてて、あちこち探し回り、しゃがんで下の棚を開けてファイルを取り出し、でも新しいアンケート用紙をくれるのではなく、私はこうしていただいたアンケートはきちんとファイルしているのです、と説明し始めて、《おばあちゃん》というファイルがあったはずなんだけどとけんめいに探し、つぎつぎ棚の扉を開けていき、そのうち薄いブルーとピンクで子どもっぽいデコレーションをほどこしたファイルが出てきて、それじゃないのですかと私が言うと、はたせるかな《おじいちゃん》《おばあちゃん》の文字が表紙に。

 それが私となんの関係があるのだろう。
 もしかしたら私はもうおばあちゃんなのかもしれない。
 と、おとなしく納得して、アンケートを書いて渡す。

 上司らしい男性が出てきて、愛想よく店内へ誘われる。
 見ると、書店でも家具店でもなく広々としていて、床は白く光り、天井が高い。
 入り口に寝そべるためのカウチがあり、これは何に使うか知っていますか、と片言の日本語で話しかけられ、なあんだと思いながら、

 一定期間ごとに罪を打ち明けるのでしょう、

 と英語で言ってみた(つもり)。
 いつのまにか、先の男性上司ではない白人の大柄な男性と、やせぎすの女性がいて、ふしぎそうな顔をしているので、私は調子に乗っていろいろ罪の赦しやら語り、何だろうそれ、いま思うと死ぬほどはずかしい。

 女性のほうは大げさに肩をすくめて行ってしまい、私は白い床の上の、うぐいす色のカウチのそばに取り残されて、そうか、ここは教会だったんだなとぼんやり思った。

 それにしても、どこに向かって祈るべきなのかわからない。

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