第7話

文字数 635文字

 そのつづき。私はぶじ宿に戻って、両親が私の分の荷物も持っていてくれて(お父さんお母さんごめんなさい)、いそいでバス停に並ぶ。
 長蛇の列。白々としたロータリーの曲線に沿ってぐるっと。
 いそいで並んだのに、なかなかバスが来ない。

 バス停の透明な屋根をかけた下に、小さなコーナーがあって、おもちゃの楽器と、コインを入れる箱が置いてある。
 私、ああ、例のあれだな、と嬉しくなって、
(起きてから「例のあれって何だそれ」と思ったけどあのときはよく知ってるつもりだった、)

 コインを箱に入れようとすると、お財布にやたらに細かい外国のコインがたくさん入っていて、もたもたする。

 知らないおじいちゃまが横から親切に、1ユーロ硬貨(起きてから考えたらあれは1ユーロ硬貨じゃなかった)をつまんで、「これを入れなさい」と教えてくれる。
 そうじゃなくて、私は細かいのを合わせて1ユーロにして払いたい。
 だけど小銭を数えていたらわけがわからなくなってきて、あきらめる。

 私、1ユーロ硬貨を箱に入れ、おもちゃながらしっかりした、ドイツらしい、木づくりの素敵な楽器をいよいよ鳴らす。
 その楽器はピアノの形だけど、私はオルガンの音が出るはずだと思いこんでいて、弾いたらやっぱりピアノの音だったので驚く。

 もっと弾きたいのに、ちゃんと弾ける曲がない。
 てきとうに和音を鳴らしていたら、バスが来た。
 バス停は、信州の山中の路線バスのようでもあり、荻窪駅ビルのショーウィンドー前のロータリーのようでもあった。

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