第80話
文字数 1,225文字
前半は、野村萬斎さんのDVDをたくさん見る夢。
なぜか足踏みミシンが出てきた。あれはうまく踏むのがむずかしい。萬斎さんは狩衣 を着たまま上手に踏んでいた。さすが。
後半は、私もお話に入ってしまうのだ。
暗く湿って、スモークをたかれたような空間。また高校の友人たちとオペラを上演するらしい。私は本番の衣装、黒いドレス。何の役かわからない。しかもこのドレス、クラリネットのサミさんから借りたもの。
借りたままでいいのか訊こうと思って、「サミさん、いる?」と壁越しに呼ぶと、「いるよー。いいよー」と返事がある。声がみょうに反響するから、銭湯なのかもしれない。
サミさんの声が笑って、こだまする。ところでここはどこでしょうーかー?
暗くて雨にけむっているからよくわからない。当てずっぽうでどこか港町の名前を一つ言ってみたら、サミさん、はずれー、と笑いころげる。
浜松でしたー。
浜松?
浜松にこんな埠頭 あったっけ、とも思うけれど、もしかして、と、目の前のエスカレーターを駆け上がると、複雑な陸橋が交差していて、やっぱり浜松だ(いま思うとどう考えても渋谷の立体交差点なのだけど)。
ちょっと緊張して、思いきって陸橋の端まで走っていって、海を見ようとする。海は見えない。それでも、あるのがわかる。
なつかしくて階段を駆け下りていくと、
はたして、前の夫がいて、
私たちは昔のことをややけんか腰に語りあう。
夫が
「きみはあの頃テレビのニュース見てた?」
と非難がましく言い、それは、見ていたら僕がどんなに忙しかったかわかったはずだという意味らしく、私は見ていなかったのだけれど、負けずに、
「あなたは私がさびしくてだだをこねたと思ってるでしょ?
私の話を聞こうともしなかったじゃない」
と責めると、
夫はだんだん薄っぺらくなって、アルミのお皿に貼りついた模様になってしまいながら、「そうか、僕が悪かった」とついに認めて、
「こんな鏡は割ってしまおう」
と、いきなり自分の入ったアルミ皿の二次元の世界の中で、なにか鏡を割る。
だから夫とはもう携帯メールでしか連絡がとれない。
しかもその携帯が旧式すぎておもちゃみたいで、そこにメッセージが来て
「上手く書けないけどごめん」
などと書いてある。
待ち受けの壁紙まで、いちめんの菜の花畑にミニサイズのキャラクターたちが遊んでいるという子どもっぽい絵柄で、笑ってしまう。
私も「ごめんね」「もうオペラの稽古に戻るね」とメッセージを送って、すっきりして携帯をしまう。
これでもう二度と彼と連絡を取ることもないだろう。
大きな焼き物の壺を傘立てにしたのが、たしかに出てきたけれど、どの場面だったか。
あいかわらず夜で、霧雨が降っているのに、行く先は明るい菜の花畑だ。
※文中の野村萬斎さんはもちろん私の夢の中の野村萬斎さんで、現実の野村萬斎さんとは関係ありません。
※自分で読み返してもよくわからないのですが、それでもたしかにこういう夢でした。
なぜか足踏みミシンが出てきた。あれはうまく踏むのがむずかしい。萬斎さんは
後半は、私もお話に入ってしまうのだ。
暗く湿って、スモークをたかれたような空間。また高校の友人たちとオペラを上演するらしい。私は本番の衣装、黒いドレス。何の役かわからない。しかもこのドレス、クラリネットのサミさんから借りたもの。
借りたままでいいのか訊こうと思って、「サミさん、いる?」と壁越しに呼ぶと、「いるよー。いいよー」と返事がある。声がみょうに反響するから、銭湯なのかもしれない。
サミさんの声が笑って、こだまする。ところでここはどこでしょうーかー?
暗くて雨にけむっているからよくわからない。当てずっぽうでどこか港町の名前を一つ言ってみたら、サミさん、はずれー、と笑いころげる。
浜松でしたー。
浜松?
浜松にこんな
ちょっと緊張して、思いきって陸橋の端まで走っていって、海を見ようとする。海は見えない。それでも、あるのがわかる。
なつかしくて階段を駆け下りていくと、
はたして、前の夫がいて、
私たちは昔のことをややけんか腰に語りあう。
夫が
「きみはあの頃テレビのニュース見てた?」
と非難がましく言い、それは、見ていたら僕がどんなに忙しかったかわかったはずだという意味らしく、私は見ていなかったのだけれど、負けずに、
「あなたは私がさびしくてだだをこねたと思ってるでしょ?
私の話を聞こうともしなかったじゃない」
と責めると、
夫はだんだん薄っぺらくなって、アルミのお皿に貼りついた模様になってしまいながら、「そうか、僕が悪かった」とついに認めて、
「こんな鏡は割ってしまおう」
と、いきなり自分の入ったアルミ皿の二次元の世界の中で、なにか鏡を割る。
だから夫とはもう携帯メールでしか連絡がとれない。
しかもその携帯が旧式すぎておもちゃみたいで、そこにメッセージが来て
「上手く書けないけどごめん」
などと書いてある。
待ち受けの壁紙まで、いちめんの菜の花畑にミニサイズのキャラクターたちが遊んでいるという子どもっぽい絵柄で、笑ってしまう。
私も「ごめんね」「もうオペラの稽古に戻るね」とメッセージを送って、すっきりして携帯をしまう。
これでもう二度と彼と連絡を取ることもないだろう。
大きな焼き物の壺を傘立てにしたのが、たしかに出てきたけれど、どの場面だったか。
あいかわらず夜で、霧雨が降っているのに、行く先は明るい菜の花畑だ。
※文中の野村萬斎さんはもちろん私の夢の中の野村萬斎さんで、現実の野村萬斎さんとは関係ありません。
※自分で読み返してもよくわからないのですが、それでもたしかにこういう夢でした。