第142話

文字数 662文字

 長い夢の一部。
 サトウタカアキくんが亡くなった、という話をしていて、私はああ彼ねと思い、心が痛む。
 ベランダや橋から飛び降りないよう、外へ出るのを禁じられていたはずなのに、彼はすり抜けて出たのだ。

 真澄さんがひどく若く、青ざめた顔で「おい!」と叫んで飛び出していくので、いまサトウくんをひき止めているのだとわかる。
 すると、私がやきもきとテーブルに手のひらを打ちつけ、カチ、カチと硬い音がしていたのが、カチリと割れて、指にはめていた石の指輪が割れたのだとわかる。
 めのうか何かなのだろう。

 そこへ、以下の説明をする声が聞こえて、
 真澄さんの声だと思うのだけれど、
 彼はさっき飛び出していったはずなのだから、時間が早送りされている。

 髪の長い、なんとか言う男の先輩の、サトウくんと親しく、私たちも慕っていた人が、酔ってサトウくんを押し倒そうとした。
 サトウくんは驚いて拒んでしまった。
 その後、先輩が亡くなり、後輩であるサトウくんは自分を責めて、くりかえし飛び降りようとするのだという。

 いつのまにか、亡くなったのがどちらなのか、サトウくんが先輩と後輩のどちらなのか、わからなくなっている。

 そもそも佐藤高明くんという友人はいない。
 そして、この話を語る真澄さんが、素肌にライダージャケットをはおり首に赤いバンダナを巻くという、私の一度も見たことのない出で立ちで、どうしちゃったんだろう彼。

 けれども私たちの悲しみだけは本物で、その証拠に、テーブルの上には割れた指輪もあるのだ。


※最後の一文は起きてすぐ書いたメモのままです。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み