第72話

文字数 337文字

 森鴎外がテーブルで手紙を読んでいて、私はその向かい側に座っている。のぞきこむと白い紙に、おまえのはなしはつまらない、というようなことが平仮名で書いてあり、鴎外先生の顔は見えないけれど、私は、無礼にあきれる。
 
 その紙がくしゃくしゃと折りたたまって、荒れ野のまん中に、大きな蝶が翼をたたんだような白い建物が出現する。
 そこから連絡船に乗れるのだ。
 荒れ野のまん中なのに。
 
 その建物じたいが船なのかもしれない。
 甲板の波しぶきをよけて、階段を下りる。空は曇天。
 
 船は激しく進んでいるけれど、もちろんどこへも行かない。
 ぐるっとまわりを回ってみる。他の出入口がありそうだ。

 ひじょうにたくさんの人の気配があり、しかも知らない人たちではなさそうなのに、誰だか一人もわからない。

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