第94話

文字数 1,004文字

 昼寝の夢。
 がらんとしたピロティのあるマンション。横に広いぶん、天井が低く感じる。

 一角にミヤザキさん宅。朝なのか、一家が出かけるところ。
 なぜ私がいるのか。
 おしたくできた? と言いながらふたごちゃんを見ると、保育園へ行く格好をし、おそろいの帽子をかぶり水筒をさげて、きょとんとしている。
 私はゆっくりと驚き、それからなぜ驚いたのか考え、この春高校に入ったふたごちゃんたちが保育園児に戻っているのが変なのだと気づく。

 笑いだしそうになると、ミヤザキさんが「しっ」と言い、
「いま出かけるところだから(黙っていて)」
と声を落として言う。
 私、了解して、ふたごちゃんたちが保育園のスモックで飛び出していくのを見守る。
 そのあと奥さんのサンデーさんを見送って、

 今度は私が歯医者に行くのにミヤザキさんが付き合ってくれるらしい。
 同じマンションの同じフロアの、ほとんど立体駐車場のようながらんとしたピロティを歩いていって、歯医者さんに着く。
 時間にうるさい先生なので、叱られないように早めに行かなくてはならなく、ミヤザキさんがせかしてくれたおかげで、まにあう。
 入り口はまだ閉まっている。

 ほっとして、扉に背を向けて息をととのえていると、
「どうぞ」
という声がして、見ると約束の6時ちょうどに(朝?夕方?)、入り口の頑丈な扉が開いている。
 あまりに扉が厚くて、奥にある部屋がとてつもなく遠くに見える。

 声を失っていると、
「どうぞどうぞ」
と重ねて言われ、ふらふらと中に入る。
 白い床が磨きあげられ、左手の壁には大きな楕円形の鏡がかけられ、その前に暗紅色の小さな実をつけた枝が品よく生けられていて、歯医者とは思えない。

 だけど玄関まで出てきてどうぞと言った白衣の人物は、まちがいなく私のかかりつけの歯医者のタサキ先生で(そんな歯医者にかかったことはない。いまのかかりつけはヤハギ先生)、
 その人がもう奥へ入ってしまったから、ついていかないと叱られそうだ。

 ミヤザキさんも入っていいものか、顔を見合わせていると、入っていいらしいので、二人でその豪華な玄関に入る。
 そのとたん、背後で例の分厚い扉が閉まる。

 怖い。

 ミヤザキさん、すたすたと奥に行ってしまって、

 私は玄関で一人立ちすくむ。
 扉が背後でゆっくり閉まってくる。

 だがいつになっても完全に閉まるということがなく、いつまでもゆっくりと閉まりつづけている。ゆっくりと。

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